近年日本でも社会課題の一つとして注目されている「ヤングケアラー」。国によって定義は異なり、日本では、2024(令和6)年6月5日に「子ども・若者育成支援推進法」の一部改正で「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」として、法的根拠が位置づけられた。ヤングケアラーの役割は家事のほか家族の生活の介助や通院・投薬の世話、感情面のサポート、乳幼児や障がいのあるきょうだいの世話や見守りなど様々である。日常的なケアのため、友人と遊んだり学業や部活に励む時間が持てなかったり、心身に不調を抱えたりと、ケアラー自身の進路や人生が大きく影響を受けることも考えられる。
2020(令和2)年の厚生労働省の調査では、公立中学2年生のおよそ17人に1人、また公立の全日制高校2年生のおよそ24人に1人が「世話をしている家族がいる」状態であることが分かった(※)。府中市を拠点に若いケアラーの支援に取り組む一般社団法人ケアラーワークス代表理事の田中悠美子さんに、ヤングケアラーの抱える課題や支援について伺った。
※三菱UFJリサーチ&コンサルティング「ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書」令和3年3月
ポイント
課題の背景・活動のきっかけ
●潜在化するヤングケアラーの実情
ちょっとしたお手伝いから始まって、子どもの成長とともに担うことが増えていき、親も本人も「お手伝い」という認識で常態化していくため、顕在化しづらい。学業や遊びなど自分の時間が持てず、将来や進路についてなどの不安がありながら、家庭内の問題と捉えられがちな家族のケアについて、人に相談できずに抱え込んでしまう実情がある。ケアを要する家族の状態も様々で、担う役割も一人ひとり違うので、漠然として不安があっても誰に相談したらよいか分からないケースも多い。
●自治体としての支援は始まったばかり
日本では2020(令和2)年に初めて埼玉県でケアラー支援条例が制定され、複数の自治体がそれに続いているが、全国的に見るとまだまだ少数派で、ケアラーに対する社会の仕組みづくりが課題となっている。
●法人設立までの成り立ち
2009(平成21)年に、若年認知症の本人と家族を対象としたボランティアグループ「若年認知症ねりまの会MARINE」として発足。同団体より派生した、若年認知症の親と向き合う子ども世代を対象とした「まりねっこ」として、ピア(仲間)の交流の場を定期開催してきた。コロナ禍のオンライン開催により参加者が全国に広がり、2022(令和4)年に「まりねっこ」は若い世代のケアラーを支援する「一般社団法人ケアラーワークス」として法人化した。
活動の特徴
●日本財団、府中市との協働プロジェクト
2023(令和5)年度より、府中市が日本財団と「ヤングケアラーとその家族に対する包括的支援推進自治体モデル事業」の協定を締結し、ケアラーワークスが市と協働で「府中市ヤングケアラープロジェクト」を運営する。ヤングケアラーの実態調査から人材育成、啓発普及活動や相談支援、ネットワーク形成などを行い、他自治体に展開できるモデルケースを構築している。
●公式LINEアカウントけあバナ
東京都ヤングケアラー相談支援等補助事業として、家族のケアをしている中学・高校生とその保護者を対象とした、公式LINEアカウントを運営。元ヤングケアラーや支援者が関わり、チャットでのやりとりなどを通じて、若い世代のケアラーが安心して話せる、気持ちを分かちあえる機会を提供する。
≫公式LINEアカウントけあバナ
●オンラインサロン運営
ケアラーワークスでは若い世代だけでなく、「全ての世代のケアラーに支援が必要」であるとし、年齢を問わず若年性認知症の親と向き合う子ども世代のケアラーに向けた場や、家族のケアと子育てが重なる「ダブルケアラー」に向けたオンラインサロンを開催する。
目指す未来
自治体によるネットワーク構築や制度の整備とともに、地域にヤングケアラーという状況の子どもがいることを、より多くの人が知るようになること。家族のケアも社会の問題として捉え、ケアラーに対する支援の必要性を共有し、声を掛け合える地域にしていくこと。