2024.05.01
国立市

農地を周り集荷、背景と共に消費者へ
都市農業を未来につなぐ流通スタイル

株式会社エマリコくにたち[2023年10月取材]

 日本の農業が抱える課題の一つに流通がある。野菜や果物などの農産物は、その多くは生産者から農協や出荷組合などに納品され、卸売市場を経由し、スーパーや青果店などの店頭に届けられている。生産者から小売店への直接販売など、卸売市場を介さない流通経路も増えつつあるものの、2019(令和元)年度は国産青果の76.9%が卸売市場経由であり(※1)、人材不足や高騰する運送コストが、生産者・流通業者・小売業者それぞれの負担となっている。また、2024(令和6)年4 月1 日以降、働き方改革関連法案(※2)によりトラックドライバーの労働時間に規制がかかることから、さらなる輸送力不足が見込まれ、農産物流通においても影響が懸念されている。

 そうした中、既存の物流業者や生産者による納品に頼らない流通の仕組み「まちなか農業流通モデル」を実践する株式会社エマリコくにたちに話を伺った。 

※1 農林水産省「卸売市場をめぐる情勢について」令和4年8月
※2 2024年4月1日以降、自動車運転業務の時間外労働の上限が年960時間に制限される


生鮮食料品等の主要な流通経路(出典:農林水産省「卸売市場をめぐる情勢について」令和6年2月)

 

ポイント

課題の背景・活動のきっかけ

● 中央線沿線を中心に地場野菜の直売所や飲食店を運営する株式会社エマリコくにたちでは、2011(平成 23)年の創業当初より、近隣地域を自ら回り農産物を買い取りで集荷する「まちなか農業流通モデル」を生み出し、既存の物流業者や生産者による納品に頼らない流通の仕組みづくりを実践している。 

● 生産者自ら納品し直売所が委託販売するという従来の直売所とは異なる方式を採用することで、生産者が農業生産や技術向上に注力できるほか、畑や生産物の様子を確認できたり、消費者に生産者の背景を伝えることができるなど、様々なメリットがあるという。 

● 現在は立川・国立・国分寺・日野などを中心に 160 軒ほどの生産者ネットワークを有し、毎朝3台の集荷車で荷を集め、6か所の直売所へと配送している。そのほとんどが駅構内や駅から徒歩圏内など、毎日の買い物に利用しやすい場所に立地しており、消費者は新鮮な地場野菜を暮らしのサイクルの中で購入しやすくなるほか、自分の暮らす地域の農業や農地のことを知るきっかけにもなっている。 


直売所では野菜のおすすめの調理法などを手書きポップで紹介(くにたち野菜 しゅんかしゅんか) 

活動の特徴

● 多摩地域の中央部の農家の多くは、旧甲州街道や五日市街道など大きな街道沿いに点在しているため、効率的なルートで集荷できるほか、少量多品目栽培の農家が多く、バラエティに富んだ商品を仕入れることができる。 

● 生産者は納品や陳列、売れ残り品の引き取りなどの負担がなくなり、農作業そのものに注力することができる。 

● スタッフ自ら集荷に行くため、畑や生産物の状況を把握できるほか、生産者やその家族との関係性の構築や、買い取りでの取引のため店頭の需要に合わせて発注ができるなどの利点がある。 

● 生産者と消費者をつなぐ取り組みとして、親子向け農体験イベント「農いく!」や、援農や農地見学、講座などで学び・経験が得られる「イートローカル探検隊」などの体験事業や、飲食事業も運営し、消費者と生産者をつなぐ架け橋となっている。


「イートローカル探検隊」では援農(畑作業の手伝い)や農地見学、講座、オフ会など農に興味のある隊員がゆるくつながり活動中


親子向け農体験イベント「農いく!」


国立を拠点に多摩中央部の 130 軒以上の農家とネットワークを持つ

目指す未来

地域の農業や生産者の思いや工夫などを消費者に届ける「背景流通」を通じて、地産地消や地域活性にもつなげると共に、消費者の想いを生産者に届ける「逆の背景流通」にも力を入れるなど、流通を通じて農家と消費者のよい循環を作っていきたい。

パートナー・関係先

NPO 法人くにたち農園の会
JR 中央線コミュニティデザイン
SEKIYA(国立市)

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