2021(令和3)年10月1日時点での日本の総人口に対する65歳以上の人口の割合は高齢化率28.9%。15~64歳の人口比率は下降を続け、2036(令和18)年には総人口の3人に1人が65歳以上になると予測されており、高齢者世帯や単独世帯の増加に対する地域のサポート体制構築が求められている。(※1)
厚生労働省では、団塊世代が75歳以上となる2025(令和7)年以降の医療や介護の需要増加を視野に入れ、高齢者が日常生活圏内で住まい・医療・介護・介護予防・生活支援が連携して提供される「地域包括ケアシステム」の構築を推進。併せて、人生の最終段階の医療やケアについて、本人の希望を家族や近しい人、医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有するプロセス「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」の概念を重視し、「人生会議」と名づけて年齢や健康状態に関わらず取り組みを推奨している。
最期まで自分らしく暮らし、終わりを迎えるためのビジョン共有の重要性が求められるなか、地域包括ケアシステムの実現と在宅緩和ケアに取り組む「立川在宅ケアクリニック」理事長 井尾 和雄さんにお話しを伺った。
※1 内閣府「令和4年度版高齢社会白書」
医療法人社団 在和会 立川在宅ケアクリニック ● https://www.tzc-clinic.com/
人生会議してみませんか(厚生労働省) ● https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02783.html
ポイント
課題の背景・活動のきっかけ
● 2007(平成19)年に超高齢社会に突入した日本。厚生労働省では、誰もが住み慣れた地域で人生の最期まで送るために、医療や介護、生活支援などが包括的に提供できる「地域包括ケアシステム」の構築を推進。
● 厚生労働省の調査では、末期がん患者の半数以上が人生の最期を自宅で迎えたいと回答しており、地域での連携が期待されている。(厚生労働省「平成29年度 人生の最期の迎え方に関する全国調査報告書」)
井尾さんは、父親の肝がん死をきっかけに麻酔科医から緩和ケア医への転向を決意。身体的・精神的な苦痛や不安を緩和し、療養生活の質を維持または向上させる医療や看護などを施す緩和ケアと、在宅での看取りを希望する声に応えるべく、2000年2月に、地域で在宅緩和ケアを提供する在宅専門診療所「井尾クリニック」を開業。
活動の特徴
●立川市を中心に半径16kmを24時間365日体制で、人生の最期を自宅で迎えることを希望する主にがん・非がん患者を対象に、診療計画を立てて定期的に訪問する在宅緩和ケアを提供
●医師、訪問看護師、薬剤師、訪問介護士、ケアマネージャーなど、多様な分野の専門家が地域で連携して、患者の「痛い・苦しい・辛い」などの症状を緩和しながらチームで見守る
●「地域包括ケアシステム」の実現に向けた研修・講座・地域の医療従事者の連携活動の推進
●「人生会議」についても触れた著書「最期まで自宅で過ごせる『死に方のトリセツ』」(2019年・けやき出版)を発行
目指す未来
●行政と地域の医師会が現状を理解してタッグを組んだ「地域包括ケアシステム」の実現
●最期まで自分らしく過ごせる地域社会づくり、家族や身近な人と話し合うACP(人生会議)の推進
●独居が増え孤独死(検視)の可能性が増加傾向。自宅で医師が看取る地域環境づくり
パートナー・関係先
●東京都全域のがん診療連携拠点病院2カ所、診療連携拠点病院26カ所、大学病院、総合病院、多摩地域の地域病院、診療所と提携。
多摩地域の24時間対応可能な訪問看護ステーション(契約先98カ所)、訪問薬局、訪問歯科、訪問マッサージ、訪問リハビリ等と連携をとる。