未来を創るたまの企業

2026.11.01
瑞穂町

“まだ世の中にないもの”を形に
研究開発の一歩目を支える技術力

株式会社サンテック

[2026年08月 取材]

 

 スマートフォンで写真を撮る、自動車に乗る、医療機器で検査を受ける。私たちが日常的に使用する製品の中には半導体が組み込まれ、重要な役割を担っている。こうした部品が製品になるまでの工程には、素材を「切る」「削る」「磨く」といった精密加工が欠かせない。なかには髪の毛ほどの細さを扱う、肉眼では捉えにくい微細な加工領域もある。

 東京都瑞穂町に本社を構える株式会社サンテックは、半導体や光学機器などに使われる素材の精密加工を手掛ける企業である。同社の特徴の一つが提案型の試作加工。決められた製品を大量に作るだけではなく、メーカーや研究者から寄せられる「この素材を加工できないか」「まだ前例のない形を実現できないか」といった相談に応じ、試作を数多く行っている。一見すると実現が難しい依頼についても、実現できる方法をともに検討するなど、研究開発の段階から技術面で支えている。同業他社には対応が難しい加工にも挑戦し、一つひとつ技術やノウハウを蓄積してきたことが、現在の高い対応力を支えている。
 新しい製品や技術を生み出す時には、そのアイデアを実際の「形」にする技術が欠かせない。製品そのものに社名が出ることは少ないものの、研究開発を前に進め、現代社会の技術革新を支える「縁の下の技術者」である同社の取り組みを取材した。

 


事業の特徴

 

一社依存からの転換が培った試作への対応力

1997(平成9)年、日野榮(さかえ)さんが、半導体部品の加工会社で培った経験を生かして創業した株式会社サンテック。創業当初は大手企業を主要取引先とする外注加工を中心に、特定の一社への依存度が高い事業構造であったが、2000年代半ばに転機が訪れる。主要取引先を取り巻く事業環境の変化を受け、同社は新たな顧客の開拓に乗り出した。その後、新しい技術や製品の開発に取り組むベンチャー企業から、「1個だけ作ってほしい」「他社で断られて困っている」といった試作に関する依頼や相談が寄せられるようになった。「一つひとつのご依頼を大切にし、新しい加工にも挑戦するなかで技術とノウハウを蓄積したことが、現在につながっています」と、現・代表取締役社長である日野広美さんは語る。2010年代初めにはスマートフォン向けカバーガラスの加工依頼が急増し、日野さんが「スマホバブル」と振り返るほど、売上が大きく伸びた時期もあった。しかし、その後は海外企業との競争や内製化などによって需要が縮小。こうした経験を踏まえ、同社は大量生産を目指すのではなく、多様な顧客から寄せられる少量・多品種の案件に一つひとつ応える方向へと事業を転換した。現在は、特定の顧客に依存しない事業構造を築き、年間に約300社の企業・大学・研究機関などと取引し、多様な依頼に対応している。試作を通じて培った高い技術力が同社の強みとなっている。

瑞穂町長岡の本社・工場

 

父から受け継いだ会社を現場主体の組織へ

父から事業を引き継いだ日野さんは、かつて2人の子どもを育てる専業主婦であった。当初は同社の事業内容にも詳しくなかったが、「少し手伝ってほしい」と父に声をかけられたことをきっかけに経理を担当、税務や会計、パソコン操作を学びながら仕事の幅を広げていった。2017(平成29)年に代表取締役に就任し、2019(平成31)年に父の逝去を受けて経営を本格的に引き継ぐと、現場の社員が主体的に判断できる組織づくりを進めた。「父は半導体部品の加工をとてもよく知っていました。しかし事業について何も知らない状態で入社し、現場に支えられながら経営を担ってきた私は、現場主体の重要性を誰よりも感じています」と日野さんは語る。

日野さん(前列右)と前社長の故・日野榮さん(前列中央)と社員

 

半導体の微細加工を支えるダイシング技術

同社が主に手掛ける「ダイシング加工」とは、半導体や光学ガラス、セラミックなどの素材を、専用の装置とブレードと呼ばれる切断刃を用いて、必要な大きさ・形状に切り分ける技術である。切断時は水を用いて発生する摩擦熱を抑えながら、円盤状のブレードを高速回転させる。代表的な用途は、半導体の製造工程において、半導体の基板となる薄く丸いシリコンウエハーから、小さなチップを切り出す作業である。ウエハーには同じ回路が多数形成されており、個々のチップに切り分ける。切り出されたチップは、スマホなどの身の回りの電子機器から、データセンター、AI半導体、そしてそれらをつなげる光デバイスなどに組み込まれていく。同社では、シリコンだけでなく、ガラスやセラミックなど多様な素材を扱っており、条件や形状に応じてブレードの種類や加工条件を細かく調整することが重要となる。さらに、加工時に発生する細かな粉じんや削りかす(コンタミネーション)が部品に付着すると品質に影響することから、「カット部2流体」と呼ばれる仕組みで粉じんや削りかすを抑え、加工面の品質を維持する工夫も施している。こうした微細加工への柔軟な対応力を生かし、同社は半導体製造の後工程の一部である研削、ダイシング、ソーティング、外観検査などを請け負っている。

ダイシングとは円盤状の刃を高速回転させて水をかけながら製品を縦横に切り分ける加工
加工後の最終製品(イメージ)

 

「0を1にする」試作開発

同社の技術力が特に発揮されているのが、試作・研究開発に関わる依頼である。大学や企業の研究開発部門などから寄せられる依頼は、指示された条件通りに加工するだけでは対応できない案件も多い。素材に合わせて最適な貼付け用テープ・ブレードの選定、加工条件(切断深さやスピード)などを検討する必要がある。日野さんは「この技術に関して私たちは、0を1にできる会社と自負しています」と語る。試作案件は主に、大学の研究者や大手企業の開発部門などから寄せられる。なかには20年、30年先を見据えた研究開発に関わるものもあり、培った加工技術が、10年後、20年後に量産へと至るケースも少なくない。研究開発の初期段階から加工技術で関わることが、新たな製品や技術の実用化を後押ししている。

金属顕微鏡等を使用してウエハーの外観検査をする様子

 

自らの加工技術の限界に挑戦する装置オペレータ

 

「どこまでできるか」を自ら試す

顧客からの依頼に対応するだけでなく、自ら加工技術の限界を検証することもある。ある時、シリコンウエハーをどこまで薄く加工できるか社内で検証したところ、当時は困難と考えていた10μm(0.01mm)まで薄く加工することに成功。その後、ある大学の研究者から同程度の薄さへの加工依頼が寄せられた際には、この経験を活かして迅速に対応できた。こうした自主的な技術検証が、技術者の経験値を高めるだけでなく、顧客の「まだ実現できるか分からない」という相談に応えるための技術的な基盤となっている。素材や形状、加工条件が案件ごとに異なる試作では過去の経験が重要であり、同社内ではベテラン社員が蓄積してきた知識を若手へ伝えながら、これまでにない加工にも挑戦している。日頃から「どこまでできるか」を試しておくことが、未知の加工に対応する力になる。

0.5mm角のガラスを並べて描いた「瑞穂町公式キャラクターみずほまる」のドット絵
(動画配信サイトで製作映像を紹介している)

                                  

現場の判断力が技術と人を育てる

同社が重視する「現場の社員一人ひとりが自ら考え、判断する」という姿勢は、業務において日々実践されている。難しい依頼が入ると、まず現場の社員が実現方法を具体的に検討する。急ぎの依頼についても、進行中の案件との兼ね合いを現場が調整し、適切なタイミングで対応する。こうした対応を支えているのが、経験を積み重ねてきた社員の判断力と、それを次世代につなぐ仕組みである。加工条件の選定には、素材ごとの特性や過去の経験など、マニュアルでは身につきにくい判断力が必要となる。一方、試作の特性上、案件ごとに条件が異なるため、過去のノウハウを次の案件に生かすためには記録も不可欠だ。経験から得たデータやノウハウを個人にとどめず社内で共有し、次世代の社員が活用できる形で蓄積する取り組みも進めている。現在、現場の社員は約30人で、女性も約3割を占める。製造業未経験者も積極的に採用し、また東京工科大学や都立羽村高校、多摩工科高校からのインターンシップなどを通じて、実務の中で次世代の人材を育てている。

インターンシップの様子

 

技術と環境の両面から「価値」で選ばれる企業へ

近年、力を入れているのが環境対策である。2011(平成23)年に太陽光発電と蓄電池の導入を開始。工場の電力使用量を可視化するとともに、ピークカットなどの省エネルギーを進めてきた。こうした継続的な活動が評価され、2022(令和4)年に東京都の「HTT優良取組事例」10社の一つとして、大手企業と並んで選定(※1)された。さらに2025(令和7)年12月には、国際的イニシアチブ「SBTi」による認定(※2)を取得。10年間で温室効果ガス排出量を42%削減する目標を掲げ、太陽光発電や蓄電池、CO2フリー電力などを組み合わせた環境負荷の軽減を進めている。こうした活動を社内に浸透させるため、社屋入口の大型モニターに発電量や電力削減量を毎日表示し、全社員が交代で朝礼時に数値を発表するなど、一人ひとりが環境対策を自分事として捉えられる工夫もしている。「瑞穂町の町工場から、半導体や光学分野の研究開発を支えたい。そのために価格ではなく、価値で認めてもらえる会社として、環境への取り組みにも積極的に取り組んでいきます」と語る日野さん。技術と環境の両面から顧客や地域に必要とされる存在を目指す。まだ形のないアイデアを加工技術によって具体化し、試作から量産へとつなげる。瑞穂町の町工場が、世の中にないものを形にする研究開発の第一歩を支えている。

※1:東京都が実施した「夏のHTT推進期間」(2022年7月1日~9月30日)において節電等の優良な取組を行った10社を選定したもの
※2:パリ協定の「気温上昇を1.5度に抑える」という目標に沿った温室効果ガス削減目標を、国際的イニシアチブ「SBTi(Science Based Targets initiative)」が認定する制度

社屋入口の大型モニターで随時監視測定している発電・Co2削減量を見られる

 


お話を伺った人

 

(肩書き・氏名)
株式会社サンテック
代表取締役社長
日野 広美さん

 

企業概要

HP https://www.c-suntec.co.jp
代表者名 日野 広美
資本金 25,000,000円
創業 1997年3月
社員数 42名(2026年10月1日現在)

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