未来を創るたまの企業

2026.04.01
八王子市

未来をつくり、過去を守る
現場から生まれる解決型のものづくり

第一合成株式会社

[2026年02月 取材]

 東京都八王子市元本郷町に本社を構える第一合成株式会社は、1975(昭和50)年の創業以来、時代や社会の要請に応えながら事業領域を広げてきたものづくり企業だ。合成樹脂の専門商社としてスタートした同社は、顧客の現場に寄り添う中で独自の製品開発を重ね、現在では「工業事業」と「文化財事業」という2つの柱を確立している。

 工業事業では、生産・物流現場の効率化を支える箱や仕切り、静電気対策製品などを手がけ、なかでも組み立て品を固定して作業効率を高める「ラインパレット」は数少ない国内メーカーとして高い評価を受けている。一方、文化財事業では、出土品の洗浄・保存・展示に関わる製品を全国の博物館や研究機関に提供し、文化財業界の老舗として確かな地位を確立してきた。

 未来の産業を支える技術と、過去から受け継がれる文化を守る技術。一見異なる分野を手がけながら、同社に共通しているのは、現場の声を丁寧にヒアリングし、製品として形にしてきた歩みである。顧客の課題に向き合い続けるなかで、どちらの分野でも信頼を積み重ねてきた。その実績こそが同社の現在の姿を支えている。

 


事業の特徴

 

現場で得た課題と気づきを製品開発に活かす

同社の原点はプラスチック製品の専門商社である。プラスチック製コンテナなどを仕入れ、必要とする現場に届ける事業を行っていたが、一般的な物流資材だけではいずれ価格競争に巻き込まれることは明白であった。1980年代に日本の半導体・電子部品産業は急速に高度化したが、電子部品の高集積化が進むなか、静電気放電(ESD)による不良は重大な品質問題となっていた。そこで同社ではこの産業構造の変化を捉え、導電性プラスチック製品の開発に踏み出した。静電気対策を施した電子基板専用の溝付き保管・搬送箱(ラックトレー)などを自社で独自開発し、全国の電子部品工場の不良率低減に貢献して販路を広げていった。現場の課題や意見を汲み取り、そこで得た気づきを製品開発に活かす姿勢は、当時から今まで一貫している。

創業当時の展示会出展の様子

 

不良を出さないための工業製品づくり

代表的な製品が、電子部品を安全に保管・搬送するボックス「ラックトレー」と製造ラインの専用台「ラインパレット」である。ラックトレーは前述の静電気対策の製品で、ボックス自体はもちろん内側の緩衝材にもカーボンを練り込み、導電性プラスチック(※)が静電気を逃がしてスパークを防ぐ。内側の細かい溝を調整して部品サイズにピッタリ合わせて、衝撃から保護しながら安全に搬送・保管できる(溝固定のモデルもあり)。一方、ラインパレット(通称、治具〔じぐ〕パレット)は発売から40年以上のロングセラー。給湯器や冷蔵庫、電気自動車用電池など、大型で重い製品の製造ラインにおいて、部品を正しい位置に固定して効率よく組み立てるための専用台座である。回転機構付きなどユーザーに合わせた仕様があり、例えば回転パレットの場合、部品を置いたパレットが流れてくると、作業者は動かずに製品を回転させて表・裏・側面の作業を無理なく行うことができる。こちらも誰もが安全に作業でき、作業ミスを減らしてスピードを向上させる環境整備に貢献している。

※本来絶縁体であるプラスチックに、カーボンブラックや金属フィラーなどの導電性素材を混入・配合し、電気を通す(導電・帯電防止)機能を付与したもの

電子部品を安全に搬送するボックス「ラックトレー」
製造ラインの専用台「ラインパレット」
製造ラインの専用台座「ラインパレット」

 

工場と文化財をつないだ発掘現場が転機に

このようにプラスチック製品を扱う企業として事業を続けてきた同社であったが、文化財との接点は40年以上前。先代社長の河野廣司さんが全国を営業で回るなかで、たまたま立ち寄った発掘現場であった。当時から発掘や文化財の現場では女性が多く働いていたが、出土品を入れる箱は木製で重く、女性には特に扱いづらいものだった。なぜ重く扱いづらい木箱が今も使われているのか――素朴な疑問から軽量で扱いやすいプラスチックコンテナを提案。やがて全国の教育委員会や埋蔵文化財センターとの直接取引が広がり、「プラスチック製品ではないけれど、文化財関連の道具も作ってほしい」という依頼も寄せられるように。こうして商社機能を超え、プラスチック製品にもこだわらず幅広い自社開発へ踏み出したことが、現在の文化財事業の礎となった。

堅牢な設計で多目的に使えるテンバコ(プラスチックコンテナ)

 

文化財事業のベストセラー「真弧(まこ)」

文化財事業を代表する製品は、出土した遺物の形状を実測する「真弧」である。1枚あたり0.5㎜以下の薄さの竹羽(たけば)を何百枚も束ねた道具で、上下からしっかり固定されつつも、1本1本が前後にスライドできる構造。土器の表面に押し当てた後になぞると、有機的な曲線も再現度高く写し取ることができるロングセラーである。「この道具はもともと、考古学者が自作していたそうです。私たちがその製造を引き継いで50年近く、素材の選定や改良を重ねてきました。現在ではヨーロッパなどの海外でも非常に高い評価を得ています」と代表取締役の河野良子さん。その言葉通り、竹特有のしなやかさと柔らかさを備えた真弧の竹羽は、土器を傷つけることなく柔らかく形に沿い、戻すとぴたりと揃う。「竹羽の製造技術は文化庁の選定保存技術に関わる領域でもあり、真弧の製造自体が文化継承の一端を担っていると自負しています。現在も、全国の自治体や民間の文化財修復施設や考古学専攻の大学などからご注文を多くいただいており、道具としての需要の高さを感じています。効率だけでなく“測り方も継承する”という文化財の価値観に寄り添いながら、海外市場へも積極的に目を向けています」と技術部部長の山上隆さん。アナログでありながら高精度の実測道具は、デジタル計測が普及した今でも世界中で使われている。

出土した遺物の形状を実測する道具「真弧」

 

文化財事業ではサービス領域にも展開

文化財事業では製品だけでなく、サービス領域にも展開させている。その1つが「遺物洗浄・注記の受託サービス」で、日本各地で出土した土器や石器を専用洗浄機で丁寧に洗浄し、大小様々な欠片の1つひとつに発掘日時・場所を書き込む注記という工程を丸ごと請け負う。かつては各自治体が手作業で行っていたが、近年では自治体の合併や人事異動、出土量の増加や人手不足により負担が増大し、管理しきれない自治体もあるという。同サービスは当初、洗浄機のリースから始まり、やがて同社の工場で遺物を預かり作業を請け負うサービスに発展した。水圧や水流をコントロールできる専用洗浄機で土器や石器についた土をやさしく落とし、インクを吹き付ける注記機械ジェットマーカーで手書きより早く読みやすく注記する。効率が良く遺物を傷つけにくい同サービスで作業効率を飛躍的に向上させるとして、現在は自治体からの委託も増えている。

 水圧や水流をコントロールできる専用洗浄機

 

注記機械ジェットマーカー

 

サステナブルと第三の柱へ

近年は美術館などに向け、竹の集積材を用いた展示台やケースの開発にも挑戦している。鉄鋼価格の高騰や環境配慮の要請が高まる中、サステナブルで温かみのある竹素材を使った持続可能な展示方法の提案に向け、文化財保存の厳格な基準をクリアするための検証を進める。さらに新たに森林事業部を立ち上げ、苗木機械植栽機「柾樹(まさき)」を開発。市場調査から始め、林業の人手不足という地域課題に応えるための製品を形にした。工業でも文化財でもない「第3の柱」を模索する姿勢は、同社のDNAを象徴している。「どうして工業と文化財?とよく問われますが、私たちは特別なことだとは捉えていません。これまでも合成樹脂製造という枠にとらわれず、困っているお客さまがいれば解決策を一緒に探し、必要であれば協力先を見つけてきました。その柔軟さこそが私たちの強みです。過去を守る文化と未来をつくる産業は、一見異なる2つの分野の取り組みですが、核となる価値観は同じ。これからも時代の変化を受け止めながら、過去と未来に寄り添ったものづくりを進めていきます」と、河野さんは語る。

竹集積材の展示台シリーズ「集〜TSUDOI〜」
苗木機械植栽機「柾樹」

 

 

お話を伺った人

 

(左から)
第一合成株式会社
代表取締役
河野 良子さん

技術部部長 
山上 隆さん

 

企業概要

HP https://www.daiichigosei.co.jp
代表者名 河野 良子
資本金 60,000,000円
創業 1975年9月11日
社員数 35人(パート23人含む)

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