未来を創るたまの企業
来たる脱炭素社会を支える
相模原市発の太陽電池スタートアップ
株式会社PXP
[2026年01月 取材]

再生可能エネルギーの主力として期待される太陽光発電は現在、大きな転換点を迎えている。大量生産と価格競争が進む一方で、設置場所の制約や用途の限界、周辺環境への配慮といった課題も浮き彫りになってきた。こうした状況のなか、神奈川県相模原市中央区に拠点を構える株式会社PXPは、従来とは異なる発想で次世代の太陽電池開発に取り組む技術ベンチャーである。
2020(令和2)年に創業した同社を現在率いるのは、太陽電池の研究開発から量産化までを長年担ってきた技術者、栗谷川悟さん。前職の大手メーカーで薄膜太陽電池の事業化に携わるなかで、技術が成熟しても次の展開に進めない現実を目の当たりにし、「技術を止めず、社会に届け続ける場を自らつくる必要がある」と考え、独立を決意した。
同社が開発するのは、チタン箔を基板とした極薄の太陽電池である。軽く、曲げることも可能な構造により、建物や車両などこれまで設置が難しかった場所への応用が期待されている。同社の研究開発は成果の発表ではなく、実用化を前提としている点に大きな特徴がある。短期的な流行や制度に左右されるのではなく、耐久性と実装性を重視しながら、次の社会にとって意味のあるエネルギー技術を形にしようとするその姿勢は、地域から生まれる技術の新たな在り方を示している。
事業の特徴
世界を見据えて立ち上がった 相模原市発のグリーンテックスタートアップ
株式会社PXPは、ソーラーパネルのデバイス研究と量産技術開発に長年携わってきた技術者たちが中心となり、2020(令和2)年に神奈川県相模原市で設立されたスタートアップ企業である。代表取締役社長の栗谷川さんは、1990年代初頭から薄膜太陽電池の研究開発に携わり、CIS系の化合物(※1)を利用した太陽電池の事業化と量産化を主導してきた。大企業の研究開発部門で巨額の投資と大規模生産を経験する一方で、技術が成熟しても次の一手を打てないもどかしさや、経営判断によって事業が止まってしまう現実も目の当たりにしてきた。だからこそ栗谷川さんは、「技術を失わせない」「次の世代につなぐ」ための受け皿として、独立という新たな挑戦を選んだのである。
※1:銅(Cu)、インジウム(In)、セレン(Se)を主原料とする化合物
従来の太陽電池が設置できなかった工場や倉庫の屋根や壁面、曲面にも設置できる
「軽く、曲がり、割れない」薄膜太陽電池という発想の転換
同社が開発する太陽電池の最大の特徴は、その構造にある。一般的なシリコン太陽電池がカバーガラスとアルミフレームで作られているのに対し、同社の薄膜太陽電池は厚さ約50ミクロンのチタン箔を基板として用いる。その上に、わずか数ミクロンの化合物半導体層を形成することで、軽量(※2)かつ高い耐久性を実現する。チタン箔は水や熱に強く、錆びることもない。踏んでも割れず、曲げても裂けにくい素材であり、従来の太陽電池に不可欠だった「重たいガラスで守る」という前提を覆した。これにより、建物の屋根や壁面だけでなく、車両、仮設構造物、持ち運び可能な電源など、設置場所の自由度が大きく広がることになった。
※2:一般的なシリコン太陽電池の約1/10の軽さ
ペロブスカイト×カルコパイライトのタンデム構造
同社が世界で初めて挑戦しているのが、性質の異なる2種類の太陽電池を重ね合わせ、それぞれの長所を生かす「タンデム構造」の開発である。太陽電池にはそれぞれ得意とする光の色がある。この「どの光に強いか」を示す指標が分光感度であり、分光感度の異なる太陽電池を組み合わせることで、紫外光から赤外光まで、より広い波長域の光を効率よく電力に変換できるという(※3)。上層には紫外光から赤い光に強いペロブスカイト太陽電池、下層には赤い光から赤外光に強いカルコパイライト太陽電池を配置することで、それぞれの弱点を補い合う設計である。
※3:2024(令和6)年4月時点で26.5%という高い変換効率を達成。なおシリコン太陽電池の変換効率は一般的に18~22%程度と言われる。
ガレージから始まった開発と量産への道筋
創業当時は、90平方メートルほどの倉庫のような空間に栗谷川さんが一人という、まさに「ガレージファクトリー」と呼ぶにふさわしい状況でスタートしたという。程なく数名の仲間が合流すると、中古の装置を買っては運び込んで設置し、足りない測定装置は懇意にしていた東京工業大学との共同研究で補いながら、技術開発が進められた。そうした積み重ねの成果として、2024(令和6)年には量産技術のパイロットラインが稼働を開始、2026(令和8)年度中には市内でマザー工場が稼働開始する予定である。「世の中に出す」ことを最初からゴールに据えた開発姿勢が、実用化へのスピードを支えている。
実証EVが示した、新たな可能性
同社の技術が大きな注目を集めたのが、2024(令和6)年1月に自動車部品の展示会「第16回 オートモーティブ ワールド」で披露された実証EVである。軽EVのルーフに極薄の「曲がる太陽電池」を332枚貼り付け、太陽光のみで1日あたり約16キロ程度走行するEVの姿を実車で示した。あえて太陽電池専門の展示会ではなく自動車分野の展示会を選んだのは、次の市場を見据えての判断だった。EVが普及しても電源が化石燃料由来では意味がない。車載太陽電池によって短距離の移動を自給自足のエネルギーで賄う。そのビジョンは、多くの来場者に強い印象を残し、自動車部品以外の業界からも数多くの問い合わせがあった。
軽くて曲がる、割れないソーラーを貼り付けた実証EVを展示会に展示
世に出すことにこだわる開発哲学と管理手法
「我々のものづくりを貫くのは、実用品を世に出すという強い姿勢であり、研究発表や記録に興味はありません」と栗谷川さん。最初に販売価格とコストターゲットを設定し、技術者はその枠内で最大の価値を生む設計を行う。そんな栗谷川さんが掲げるのは「放し飼い主義」と呼ぶ管理手法である。栗谷川さんは代表として目指すべき大きな絵は示すが、その後は現場の技術者たちに裁量を委ね、プロセスには過度に介入しない。「技術者たちにはいつも『仕事中に昼寝をしてようが何をしていようが構わないよ、結果を出してくれれば』と話しています。しかし面白いことに、うちの技術者たちは私が何を言うか、何を考えているかを勝手に察して、それぞれ開発を進めています」。この信頼関係が少数精鋭のチームに高い自律性とスピードをもたらしている。
第23回多摩ブルー・グリーン賞で最優秀賞を受賞
多摩地域の中小企業の活性化と地域経済の振興に寄与することを目的に、企業の優れた技術や製品とビジネスモデルを評価する第23回多摩ブルー・グリーン賞(多摩信用金庫主催)において、株式会社PXPが技術・製品部門(多摩ブルー賞)の最優秀賞と特別賞(経済産業省関東経済産業局長賞)をW受賞した。2025(令和7)年12月23日に開催された表彰式では、同社の開発した薄く、軽く、曲がる次世代太陽電池(ペロブスカイト太陽電池等)の技術力と新領域への実証実績が高く評価された。「表彰式では、我々を評価してくれる方々が地域に多くいることを知りました。賞を頂いた以上にありがたかったです」と栗谷川さんは語った。
表彰式でスピーチする栗谷川さん
お話を伺った人

株式会社PXP
代表取締役社長
栗谷川 悟さん
企業概要
| HP | https://pxpco.jp |
| 代表者名 | 栗谷川 悟 |
| 資本金 | 100,000,000円 |
| 創業 | 2020年7月4日 |
| 社員数 | 23人(常勤役員・派遣社員含む) |
