2026.10.01
三鷹市

地域に託された家がアートと交流の場へ
地域資源を活かしたまちづくり

三鷹ヴィレッジ 森のアトリエ[2026年8月取材]

 都心へのアクセスの良さと豊かな自然環境に恵まれ、企業や大学・研究機関、歴史・文化など、多様な地域資源をもつ多摩地域。戦後の宅地開発やニュータウン整備などを背景に人口が増加してきた一方、今後は人口減少や高齢化など、地域社会を取り巻く環境の変化が見込まれている(※1)。こうした変化は地域の人々のつながりにも影響を及ぼす。

 総務省の研究会では、人口減少や少子高齢化、単身世帯や女性・高齢者雇用の増加など、ライフスタイルの変化を背景に、地縁的つながりが希薄化し、地域コミュニティは衰退する傾向を指摘している(※2)。さらに、大規模工場の移転や大学を取り巻く立地環境の変化、ニュータウンにおける住民の高齢化など、地域を取り巻く状況は様々な局面を迎えている。併せて、インフラの老朽化、コロナ禍以降の新たな働き方・暮らし方の変化や、AIやDXの発展など社会情勢も目まぐるしく変化し、かつて掲げたまちづくりの計画には新たな視点が求められるようになった。

 こうした地域コミュニティの希薄化に対しては、従来の地縁組織だけに依存するのではなく、地域の中に新たな接点を生み、人と人が継続的に交わる機会をつくることが重要になる。同研究会も、地域コミュニティの機能低下が進む一方で地域課題の解決に向けて住民同士が関わる新たな動きが生まれることを示している(※3)。こうした新たなつながりを地域の中に生み出していく上で、今ある地域資源を活かすという視点も重要になる。 多摩地域には、企業や大学・研究機関の集積、公共住宅や空き家などの既存ストック、豊かな自然や農地、地域が育んできた歴史・文化など、エリアごとに多様な魅力とポテンシャルがある。新たな地域のつながりを育むためには、地域にすでにある資源に目を向け、それらを活かしていくことも一つの視点となる。

 こうした地域コミュニティの再構築を考える上で一つの事例となるのが「三鷹ヴィレッジ・森のアトリエ」だ。市に寄贈された土地・建物を活用し、若手クリエーターの活動拠点と地域交流の場を整備。暮らしながら創作活動を行うシェアハウスと、地域に開かれた交流施設を取材した。

※1:多摩のまちづくり戦略(2025(令和7)年3月 東京都)
https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/machizukuri/kozo_seibi/kyoten_seibi/tama_senryaku

※2・3:地域コミュニティに関する研究会報告書    第2・5章 (2022(令和4)年 総務省)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000819371.pdf

既存ストックを活かし地域個性や魅力をいかす「ストック活用型のまちづくり」について 出典:多摩のまちづくり戦略(2025(令和7)年3月 東京都)

 

ポイント

課題の背景・活動のきっかけ

●地域のために寄贈された土地と建物

三鷹市は2023(令和5)年4月、土地と家屋5棟の寄贈を受けた。寄贈者の「売却せずに市で地域のために活用してほしい」という意向を受け、市とNPO法人三鷹ネットワーク大学推進機構(以下、「三鷹ネットワーク大学」という。)が共同設置している「三鷹まちづくり総合研究所」に「寄贈物件等を活用した魅力あるまちづくり研究会」を立ち上げた。研究会では有識者やクリエーター、市職員らが参画し、地域のための新たな活用方法について検討を重ね、市に報告書を提出した。

地域の人が参加できる様々なイベントが開かれている

●地域特性を活かした「クリエーター支援」へ

物件の周辺には、三鷹市美術ギャラリーや山本有三記念館、三鷹の森ジブリ美術館などがあり、文学や芸術、アニメーションなどの文化資源が集積している。一方、研究会では、若手クリエーターが経済的な不安を抱えながら活動し、大学などを卒業した後には制作場所の確保にも苦労している現状に着目した。三鷹の地域特性を活かしながら若手の創作活動を支えるとともに地域住民との接点を生み出し、継続的な交流を促す場としてシェアハウスと地域交流施設を組み合わせる構想が生まれた。


オープン時の資料

 

●地域に開かれた創造の場へ

研究会からの提言を受けて市は事業化を決定し、シェアハウス棟と地域交流棟を併設した施設となるよう既存の建物の改修を行った。三鷹ネットワーク大学が市から土地・建物を無償で借り受け運営主体となり、2026(令和8)年4月に「三鷹ヴィレッジ・森のアトリエ」が開設された。「若手クリエーターのスタートアップ支援」と「地域住民やクリエーターの交流・活動を通した地域活性化」を目的に、寄贈された土地・建物を地域内の新たな交流と活動を生み出す場として活用している。

入居者募集には定員の3倍以上の応募があった

活動の特徴

●若手クリエーター支援と地域交流の場

三鷹ヴィレッジ・森のアトリエは、若手クリエーターの活動支援とクリエーター・地域住民の交流を通じた地域コミュニティの形成を目的とする施設である。三鷹ネットワーク大学が市から無償で借り受けて運営している。「暮らす」「つくる」「つながる」をコンセプトに、若手クリエーターのスタートアップを支援するシェアハウスと、地域に開かれた交流施設を併設する。施設にはコミュニティ・コーディネーターが常駐して、地域住民との交流や活動をサポート。「共に創り、共に育てる」をコンセプトに、入居者や地域住民が主体的に関わりながら場を育てていくことを目指している。

交流スペース。取材時は平和に関する本の展示が行われていた

キッチンも配備

●「暮らす」創作活動に没頭できる環境

シェアハウスは全6室。30代前半までの若手クリエーターが対象で、現在は漫画・日本画・油絵・彫刻など様々な創作活動に取り組んでいる。各棟には居住スペースとは別に共用の創作活動室を整備し、創作活動が軌道に乗るまでの経済的負担を抑えられるよう、家賃は月額27,000円~3万円に設定されている。入居している漫画家の女性は、「安価な家賃のため、生活のために働く時間を抑えて制作に集中できている。共用の作業スペースでは、ほかの入居者と夜まで制作したり、締め切りが迫ると食事を作って助け合ったり、創作活動の力になっています」と話す。「漫画家は引きこもりがちなので、共有スペースで人と交流できるのもありがたい。三鷹が大好きになったので、生涯三鷹に住めるように頑張りたいです」と笑顔を見せていた。

シェアハウスの1Fは炊事と創作ができる共有スペース ・2Fは住居

●「つくる」クリエーターと地域がつながる仕掛け

入居者には、自らの専門性を活かした展示やワークショップなどを交流施設で年1回開催する機会が設けられており、創作活動を地域との接点として活用し、クリエーターと住民が継続的に関わる機会を生み出す仕組みである。地域にも新たな交流や活動が生まれる関係を目指している。定員の3倍以上の応募があり、入居者選考では創作活動の実績だけでなく、地域活動への参加意欲を重視した。三鷹ネットワーク大学事務局長の西澤俊さんは「選考では創作活動だけでなく、得意分野を活かしたワークショップや公開制作、地域の町会との連携など、地域とどう関わっていきたいかという意欲や思いも大切にしました。ここでの時間を糧に三鷹からクリエーターとして羽ばたき、三鷹に愛着を持って住み続けてもらえたらうれしいです」と話す。

入居するクリエーターによる作品展とワークショップ

●「つながる」誰もが立ち寄れる地域の縁側

併設する地域交流施設は、原則予約不要・無料で、地域の誰もが利用できる。現在は近隣の小学生が放課後に訪れて宿題をしたり、地元企業から提供された廃材で工作をしたりするなど日常的な利用が生まれている。梅ジュースづくりや草木染め、箸づくりなど、小さなイベントも開催されている。日々の運営を担うのは、「一般社団法人ミタカエリアデザイン」のコミュニティ・コーディネーターで、学生や地域活動の担い手、地域の店舗経営者など多様なメンバーが関わる。同団体の宮口明子さんは「あらかじめ細かなルールやサービスを決めるのではなく、利用する人と一緒にルールを育て、やりたいことを形にしていきたい」と話す。「人と人」「人と地域」が自然に関わる接点として「地域の縁側」のような場が形成されつつある。

地域の方から提供された端材や絵の具が並ぶ。ゲームよりも創作活動をする子どもが多いという

●地域とともに育てる場づくり

開設前から町会などへの説明や意見交換を重ね、地域住民との関係を築いてきた。西澤さんは「はじめは、どんな施設でどんな人が住むのかと、近隣に住む方々には不安な面もあったと思います。そのため十分に対話を重ね、オープン時には入居クリエーターが作品を展示し、地域の方と直接話せる機会も設けるなどの工夫もしました」と振り返る。施設を一方的に地域へ開放するのではなく、互いに顔の見える関係を築きながら、地域とともに場を形成していくことを重視している。

目指す未来

共につくり、共に育てる。クリエーターと地域の人と場を育てながら、若手クリエーターが三鷹から羽ばたき、「人と人」「人と地域」の継続的な関係が生まれ、新たなつながりへと発展していくこと。

パートナー・関係先

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