2026.03.01
八王子市

病院グループが人生まるごと伴走
人生 100 年時代「総合生活産業」の挑戦

株式会社 Kitahara Medical Strategies International(KMSI)[2026 年 1 月取材]


 日本は人生 100 年時代を迎え、2025(令和令和 7)年時点で 65 歳以上の人口は 3,619 万人となり、総人口に占める割合は 29.4%と過去最高を更新している(※1)。こうした超高齢社会の進行とともに、単に「長く生きる」ことではなく、「どのように生きるか」が問われる現在、注目を集めているのが健康寿命である。健康寿命とは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく、自立して生活できる期間を指す。
 2022(令和 4)年における我が国の平均寿命は、男性 81.05 歳、女性 87.09 歳である一方、健康寿命との差はそれぞれ約 8年、約 12 年に及ぶ(※2・図 1)。この差は、介護や支援を必要としながら生活する「不健康な期間」を意味し、個人の生活の質(QOL)に大きな影響を与えるだけでなく、医療費や介護費の増大といった社会全体の課題にも直結している。
 世界保健機関(WHO)は高齢期の健康を、身体的・精神的能力である「内在的能力」、価値ある活動を行うための「機能的能力」、それらを支える「環境」の相互作用として捉えている(※3)。特に高齢者の社会参加は、身体・精神機能の維持、要介護リスクの低減、認知症予防、孤立防止に極めて重要だと呼びかけている。
 健康寿命の延伸や QOL の向上を実現するには、医療や介護といった制度の枠を超え、身体と精神の健康、社会参加、日常生活までを一体的に支える仕組みが必要である。こうした課題に対し、病院グループの知見を生かして人生に伴走する会員制サービス「北原トータルライフサポート倶楽部」を展開する株式会社 KMSI を取材した。

※1:総務省「統計からみた我が国の高齢者」(2025(令和 7)年)
https://www.stat.go.jp/data/topics/pdf/topics146.pdf
※2:厚生労働省「健康寿命の令和4年値について」(2024(令和 6)年)
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001363069.pdf
※3:地球規模の高齢化における WHO の取り組み「Healthy Ageing」
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2018/181021/201805002A_upload/201805002A0009.pdf

ポイント

課題の背景・活動のきっかけ

●「医療は総合生活産業」という原点

北原トータルライフサポート倶楽部を運営する株式会社 KMSI は、八王子市を拠点とする医療法人社団 KNI を母体として設立された。KNI は、24 時間 365 日の救急受入を行う「北原国際病院」をはじめ、「北原リハビリテーション病院」、八王子駅直結の「北原ライフサポートクリニック」、健診施設「北原 RD クリニック」などを運営する。同法人では、1995(平成 7)年の設立当初から、「医療は総合生活産業である」というコンセプトを掲げ、予防から急性期、社会復帰までを一貫して支える医療体制を構築してきた。

北原国際病院/北原リハビリテーション病院
北原国際病院/北原リハビリテーション病院
北原ライフサポートクリニック/北原 RD クリニック

● 病院では支えきれない 退院後の人生

救急医療や急性期医療の現場では、病気や事故が人生の大きな転機となる瞬間に日々立ち会ってきた一方で、患者の人生そのものを支えるには、病院という枠組みだけでは制度上の難しさがあった。病院でソーシャルワーカーとして患者と向き合っていた経歴をもつ、株式会社 KMSI 代表取締役の石橋千賀さんは「リハビリを経て社会復帰を目指しながらも退院後の生活に不安を抱える人や、ご自身もご家族も大きな負担を抱えながら人生の最期を迎える姿を目の当たりにする中で、それが本来あるべき最期の姿ではないというジレンマがありました」と振り返る。

北原リハビリテーション病院の内観。天然温泉もあるホテルのような心地よい空間で、AI や ICT の技術を活用し、思わず動きたくなる仕掛けや、フェイクではない本物の観葉植物を配するなど、細やかな工夫が散りばめられている。

 

●  医療機関と連携した人生に伴走する仕組み

こうした現場での違和感と限界意識から、北原グループは病院の外側に新たな仕組みをつくる決断をした。日本の医療法人では実現できない事業や、医療の専門性を活かした新しい価値創出を担うため、2006(平成 18)年に株式会社 KMSI を設立。海外では病院運営や医療システムの展開を行い、国内では病気の前後も含めて人生そのものに伴走するサービスづくりに取り組んでいる。その象徴が、2018(平成 30)年に立ち上げた「北原トータルライフサポート倶楽部」である。

活動の特徴

● 医療を軸に「より良く生きる」を包括的に伴走

北原トータルライフサポート倶楽部は、医療専門職(医師、看護師、救急救命士など)が生活をトータルサポートする会員制サービスで、24 時間相談、介護保険外の生活支援(家事代行、見守り)、自費リハビリなどを通じて、会員の生活を総合的に支援する。会員種別は、今すぐのサポートを必要とする「ゴールド会員」と、年会費無料の「エントリー会員」の 2 種があり、現在の会員数は約 800 人(ゴールド会員約 50 人・エントリー会員約 750 人)で、エントリー会員としてつながり、支援が必要になった段階でゴールド会員へ移行するケースもある。年齢や居住地は問わず、ゴールド会員は 50~60 代で病気をきっかけに入会する人もいるが、中心は 70~90 代となっている。

「北原トータルライフサポート倶楽部」料金プラン

●  ゴールド会員は、専任コンシュルジュが 24 時間 365 日サポート

ゴールド会員の支援の中核を担うのが、専任コンシェルジュである。コンシェルジュは、定期的に本人や家族と面談を行い、日常の困りごとや不安、そして「叶えたいこと」を丁寧にヒアリングし、実現に向けた調整やコーディネートを行う。24 時間 365 日対応の専用ホットラインを備え、受診や入院が必要な際には、他院であっても同行や調整を行い、医師との面談に同席することもある。健康な時期から継続的に関係を築き、「医療のことが分かる家族のような存在」として伴走する点が、ゴールド会員サービスの要となっている。

●  「かなえるサポート」

日常の困りごとや、病気をきっかけに諦めてしまった希望を支えるのが「かなえるサポート」だ。掃除や買い物、通院付き添い、パソコンの設定といった生活支援に加え、友人との食事会への同行や旅行のサポートなど、その内容は多岐にわたる。なかでも象徴的なのは、脳梗塞後に登山を諦めていた会員が、医療者の同行により高尾山登山に再挑戦した事例だ。会員は「入念な事前準備と後押しのお陰で一歩を踏み出すことができました。家族や担当スタッフと乾杯したコーラの味は格別でした」と話し、晴れやかな表情を見せたという。石橋さんは「シニアの方やご病気を持たれている方は、不安や遠慮から、本当にやりたいことを言い出せずにいる状況です。コンシェルジュが信頼をベースにそれらを引き出して、生きる活力につながっていると感じています」と話す。

● 専門機関と連携したワンストップサービス

高齢期には医療だけでなく、住まい、お金、相続、終活など複合的な課題が一気に押し寄せる。北原トータルライフサポート倶楽部では、信託銀行や不動産会社などの専門機関と連携し、ワンストップでつなぐ体制を構築している。認知症への備えや資産管理、住み替えの相談など、生活と切り離せないテーマに対し、信頼できる窓口が一本化されていることは、会員や家族の精神的負担を大きく軽減している。作業療法士で同事業の事業部長の奥田明さんは「これまでは病院という枠組みの中で、制度上できないことを理解してもらう説明に終始していました。この仕組みができたことで、患者さんやご家族に対し、人生の選択肢として様々な提案ができるようになりました」と語る。こうした取り組みが評価され 2025(令和7)年 12 月に、企業の優れた技術や製品とビジネスモデルを評価する第 23 回多摩ブルー・グリーン賞(多摩信用金庫主催)において、株式会社 KMSI は経営部門(多摩グリーン賞)の優秀賞を受賞した。

 

● 社会参加と地域循環を生む「ワークメイト」

シニアの社会参加を通じて健康寿命の延伸を目指す、北原トータルライフサポート倶楽部の新たな取り組みが「北原ワークメイト」である。多摩信用金庫と共創し、2025(令和 7)年 10 月からトライアルを開始、2026 年以降の事業化を目指している。就労を目的とするのではなく、得意なことや好きなことを活かした社会参加を軸に、地域企業の業務の一部を切り出して委託を受け、共創する仕組みで、参加者の健康づくりや生きがいを医療チームが伴走支援する点が特徴だ。高齢者の貢献寿命(社会的繋がりを維持し、役割を持って生きる期間)を延ばし、人と役割が地域内で循環するモデルとして期待されている。

趣味を活かした講師業や、病院内のヤギのお世話などで社会参加

 

目指す未来

北原トータルライフサポート倶楽部のモデルが当たり前となり、家族だけが負担を背負うのではなく、サポートを借りながら「良く生き、良く死ぬ」ことを選べる社会を実現すること

パートナー・関係先

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