2026.02.01
三鷹市

クッキングリハビリと多世代交流
地域共生の福祉モデル

地域密着型通所介護 シニアデイサービス あゆみん家[2025年12月取材]

 人口減少と少子高齢化が進む日本では、高齢期の暮らしを取り巻く環境が大きく変化している。核家族化や少子高齢化により、高齢者のみ世帯や一人暮らし高齢者は増加を続けており、65歳以上の一人暮らしの割合は、2020(令和2)年では男性15.0% 、女性22.1%に達しており、2050(令和32)年には、男性26.1%、女性29.3%へとさらに上昇することが見込まれている。核家族化や都市部への人口集中により、子ども世代が遠方に暮らすケースも多く、日常的に頼れる家族が身近にいない高齢者は確実に増えている(※1)。
 こうした社会構造の変化は、高齢者の孤立を深める要因となっている。近所付き合いや地域活動への参加機会が減少することで、人との接点を失い、「困っていても相談できない」「外出する理由がなくなる」といった状態に陥りやすくなる。社会的なつながりが乏しい高齢者ほど、心身の健康状態が悪化しやすい傾向が示されており、孤立は生活の質に直結する重要な課題とされている(※2)。特に近年、注目されているのが「フレイル」の問題である。フレイルとは、加齢に伴い心身の活力が低下し、要介護状態へと移行しやすくなる“虚弱な状態”を指す。身体的な衰えだけでなく、認知機能の低下や社会的な孤立も要因とされており、単に医療や介護の問題にとどまらない。フレイル予防には運動や栄養とともに、人との交流や社会参加が重要である。
 日常的な会話や役割のある活動に参加することは、高齢者にとって身体機能の維持だけでなく、意欲や生きがいの向上にもつながる。誰かと顔を合わせ、必要とされる経験が、心身の健康を支える基盤となるからだ。だからこそ、家族だけに支えを委ねるのではなく、地域のなかで人と人がつながり、支え合う仕組みづくりが求められている。
 地域や多世代とつながり、役割を持って生き続ける居場所づくりを実践する地域密着型通所介護事業「シニアデイサービス あゆみん家」を取材した。

出典:高齢者の社会的孤立を防止する対策 総務省 2011(平成23)年
出典:高齢者の社会的孤立を防止する対策 総務省 2011(平成23)年

※1:「令和7年版高齢社会白書」(内閣府)
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2025/html/gaiyou/s1_1.html
※2:「東京都健康長寿医療センター」
https://www.tmghig.jp/research/release/2022/0318.html

ポイント

課題の背景・活動のきっかけ

●  その人らしく、地域の人々とつながる居場所づくり

高齢者が寝たきりや認知症になると、自宅に閉じこもりがちになり、孤独感の深まりや心身機能の低下、家族の介護負担の増加が懸念される。こうした課題に対応するのが、通所介護支援(デイサービス)事業である。要介護認定を受けた高齢者が施設に通い、入浴や食事の介助、機能訓練、レクリエーションなどを日帰りで受けることで、生活機能の維持や社会的孤立の防止を図る。なかでも、定員18人以下の「地域密着型通所介護」は、住み慣れた地域で自立した生活を続けられるよう支援する点に特徴がある (※2) 。あゆみん家代表の廣澤竜騎さんは、前職で大手有料老人ホームの入居相談業務に携わり、営業部長なども務め、様々な福祉の現場を見てきた。廣澤さん自身の親も高齢になり、「高齢者がその人らしく生きるには」をあらためて考えるようになった時、その答えとして行き着いたのが、住み慣れた地域で、地域の人々とつながりながら、その人らしく過ごせる居場所づくりであった。

※3:どんなサービスがあるの?地域密着型通所介護(厚生労働省)
https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/publish/group25.html

「医療法人社団壮仁会 三鷹あゆみクリニック」の建物1Fにある「地域密着型通所介護 シニアデイサービス あゆみん家」

● 「第2の地元」多摩地域への恩返しという思い

廣澤さんは山梨県山中湖村で幼少期を過ごし、子どもの頃から、いつかは家業であるペンションを継ぐものだと思っていたという。しかしその後、両親はペンションを閉業し、家族で立川へ移り住むことになった。結婚や子育て、就職、そして親の高齢化。人生の節目を重ねるなかで、気が付けば多摩地域で過ごす時間が人生の大半を占めていた。「振り返ると、ここが自分の“第2の地元”なんだと気づいた」と廣澤さん。地域で暮らし、世代の移り変わりを身近に感じ、地域に貢献したいという思いが創業への後押しとなった。

 

● 経験と課題意識が重なり事業へ

立川へ移住後に父親が学習塾を営んでいたこともあり、子どもの居場所や成長に関わる仕事は身近な存在だった。近隣地域に放課後等デイサービスが不足していることも感じており、自身が経験してきた介護保険事業とのスキームも近く、経験を生かす形で、福祉の分野に関わる道を模索するようになった。こうして2020(令和2)年3月に創業し、同年9月に八王子市北野町で放課後等デイサービス「遊&学Stories北野町クラブ」を開設。子どもから始まり、やがて高齢者や地域全体へと支援対象を広げ、2024(令和6)年4月に「地域密着型通所介護 シニアデイサービス あゆみん家」を開設した。

放課後等デイサービス「遊&学Stories北野町ハウス」
放課後等デイサービス「遊&学Stories北野町ハウス」外観

活動の特徴

●  五感を使う「クッキングリハビリ」

施設は、在宅医療に力を注ぐ「医療法人社団壮仁会 三鷹あゆみクリニック」の建物の1階にあり、コロナ禍で使われていなかったキッチン付きのスペースを活用してスタートした。あゆみん家が通常のデイサービスと異なる特徴のひとつに「クッキングリハビリ」がある。料理は、「トントン」「コトコト」「ジュージュー」といった音や、食材の香りなど、作業の過程で五感(味覚・嗅覚・視覚・触覚・聴覚)のすべてを刺激する。通所する高齢者自身が料理をすることで、自然と会話が生まれ、見通しを立てながら工程を進めることで、認知症の進行予防にもつながるという。当初は包丁の使用など、安全面への不安も大きかったが、職員がそばで見守ることで安全に取り組めている。介護スタッフの一人は「約10年ぶりにキッチンに立った方の表情が、ぱっと明るく変わったのが印象的でした。相手を気遣ったり、嫌いな食材も残さず食べたりと、日々驚かされる。働いているこちらも楽しいです」と話す。野菜を洗う、切る、食材をつぶす、配膳を手伝うなど、その人に合った役割を用意することで、「できること」を引き出していく。クッキングリハビリは、身体機能の維持だけでなく、自己肯定感や生きがいを育む時間にもなっている。

スタッフが見守り調理や盛り付けなど役割を分担
完成したら全員で食事をする

● 特別なことはしない。「多世代交流」は日常の延長で

あゆみん家では、併設する放課後等デイサービス(※3、以下「放デイ」)を利用する子どもたちと、同じ空間で過ごす多世代交流を毎日行っている。取り組みを始めた当初、スタッフの多くは高齢者と同居の経験がほとんどなく、発達障害や知的障害のある子どもたちと高齢者が同じ場に集まった時、どのような反応が起こるのか、不安もあったという。現在は、高齢者の帰宅前の30分から1時間を「多世代交流タイム」とし、イベントではなく日常的な関わりを持っている。誕生日を祝ったり、ゲームなどのリクリエーションをしたり、得意なことを教え合ったり、特別なプログラムは用意しない。子どもたちは高齢者のそばで宿題をしたり、気が向けばゲームに加わったりする。まるで「おばあちゃんの家」に遊びに来たような、自然でラフな関係性が育ち、高齢者と子どもにとってかけがえのない時間となっている。放デイのスタッフの一人は「以前は他人にあまり関心を示さなかった子が、自分から挨拶をするようになったり、『もう行く時間?』と楽しみにしていたりする姿が見られるようになりました」と話す。スタッフが利用者の特性に配慮しながら関わりを重ることで、子どもと高齢者双方の心理的安全性や相互理解が深まり、多世代交流は日常のなかの温かな時間となっている。

※4:障がいのある就学児(小・中・高校生)が放課後や長期休暇中に利用できる福祉サービス

多世代交流の様子

● 地域とのつながり

三鷹市社会福祉協議会と協働し、ダブルケアラーやワーキングケアラー向けの交流会を定期開催している。介護職・ワーキングケアラー・歯科医などを迎えて、介護・口腔ケア・フレイル予防などの講座を交えながら交流会を開くほか、地域の祭にも参加。さらに、運営するワイド・リンクでは一人暮らし高齢者の増加を背景に、電球交換や掃除、見守りなどを行う「まごころサポート」も展開する。20分1,000円の保険外サービスだが、地域との信頼関係があるからこそ成り立つ取り組みとして徐々に広がっている。

目指す未来

安心して一緒にいられる居場所を、地域みんなで育てていくこと。

切れ目のない支援と地域福祉が循環すること。

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