
全国各地の中心市街地は、かつて地域経済や暮らしの拠点として賑わいを見せてきた。しかし、人口減少や消費行動の変化、大型商業施設の郊外進出などにより衰退が進んでいる地域もある。経済産業省・中小企業庁の調査(※1)によれば、百貨店を中心とした中心市街地の店舗数は減少傾向が続き、地域経済の停滞や都市の魅力低下が全国的な課題となっている。さらに、オンライン消費の拡大や交通インフラの整備により、消費者の選択肢は広がったものの、商店街や駅前施設に足を運ぶ機会は減少している。また、ナショナルチェーンの店舗率が増加するなど、地域独自の個性を発揮できない都市が増加している。
こうした状況を受け、国は2002(平成14)年に制定した都市再生特別措置法の中で「都市再生推進法人」制度を創設。株式会社や一般社団法人、NPO法人などを国や自治体が指定し、公的な担い手として都市再生事業を実施できる仕組みである。指定を受けた法人は補助制度や規制緩和を活用しつつ、官民連携のハブとして地域に根ざした事業を推進できる。現在では全国に137法人(※2)が指定を受けており、多摩地域では武蔵野市・府中市・町田市の3市で3法人が活動し、中心市街地再生の重要な担い手として注目されている。
その1つ、府中市から都市再生推進法人に指定された「まちづくり府中」では、2025(令和7)年から「商業施設出店者マッチング事業」を展開している。多彩な事業者と施設を逆提案型でつなぎ、地域の賑わいを再生する独自の試みを取材した。
※1:経済産業省「商業動態統計調査」(1980年~2022年)中小企業庁「令和3(2021)年度商店街動態調査」
※2:2024(令和6)年10月末時点
[参考]内閣府 地方再生「今後の中心市街地活性化の重点課題」令和6年
ポイント
課題の背景・活動のきっかけ
● 官民一体で「府中らしさを活かしあう」まちづくり
府中市は、奈良時代には武蔵国の国府が置かれた歴史を持ち、江戸時代には甲州街道の宿場町として栄え、近代以降は鉄道の開通や再開発により、多摩地域の中核都市として発展してきた。一時は、コロナ禍などの影響で年間販売額や歩行者数の減少がみられたが、新しい商業施設も誕生し、近年府中駅前は再び活気を取り戻している。その背景には、府中市が2016(平成28)年に国の認定を受けて「府中市中心市街地活性化基本計画」を策定し6年間各種施策に取り組んできたことに加え、2022年(令和4年)には、「府中市中心市街地活性化ビジョン」を策定。「”府中らしさ”を活かしあう、求心力のある中心市街地の形成」を基本理念に、都市再生推進法人「まちづくり府中」が中心となり官民連携でにぎわい創出に挑んできたことが挙げられる。

武蔵国の総社であり、東京五社の一社である大國魂神社
●「商業施設出店者マッチング事業」を始動
府中駅前には、「くるる」「武蔵府中ル・シーニュ」「ミッテン府中」「専門店街フォーリス」「ぷらりと京王府中」など5つの大規模商業施設が集積し、南口再開発に伴いにぎわいを見せている。そのにぎわいを、さらに魅力的な商環境を通して展開するために、これまで府中にない個性的で多様なテナントを誘致していく必要があった。そこで、府中市とまちづくり府中が中心となり、2025(令和7)年から、地域の事業者と各商業施設をつなぐ「商業施設出店者マッチング事業」をスタートした。
府中市が主催し、まちづくり府中が運営する「商業施設出店者マッチング事業」
●まちづくり府中のなりたち
府中駅前の公共空間活用をきっかけに誕生した任意団体「L♡veふちゅう賑わい創出委員会」を母体とし、2016(平成28)年に一般社団法人化、2024(令和6)年には、より民間主導の経営体制を整えるべく株式会社へと組織改編を行った。都市再生特別措置法に基づく「都市再生推進法人」の認定を受け、市と民間事業者をつなぐ中間支援組織として、府中市の活性化や地域資源の発掘に力を注いでいる。タウン誌の発行やイベントの企画・運営、ふるさと納税返礼品開発など幅広い事業を展開し、行政・企業・大学・市民など多様な主体との連携を通じて「府中らしさ」の再発見と地域価値の向上に取り組んでいる。
けやき並木通りで2025年9月に開催した「FUCHU BEER GARDEN 2025」
活動の特徴
● 出店したい事業者と駅前商業施設をマッチング
府中駅前の商業施設と出店を検討している事業者をつなぐ取組み。従来の不動産主導型とは異なり、出店希望者が「まちでやりたいこと」を申請し、商業施設側がオファーする “提案受け入れ型”を採用し、柔軟な調整を可能にしている。さらに、商工会議所や市とも連携し、家賃補助や助成金制度の案内・相談にも対応し、包括的なサポート体制を整備している。

●積み重ねた実績を活かした展開
同社ではこれまで、けやき並木通りでのマルシェや音楽イベントなど、数千人規模が集う催しを数多く実施してきた。また、市内約100か所に配布する隔月発行のタウン誌(1万部)や、情報サイトでの発信を通じて地域と事業者をつなぐ活動を継続。都市再生推進法人として、公的役割を担いながらも民間ならではの柔軟な発想で、情報発信を行っている点が大きな特徴である。こうした活動基盤の上に、府中駅前の商業施設とむさし府中商工会議所を交えた月1回の情報連絡会を開催。競争関係にある商業施設同士も手を取り合い、地域全体を盛り上げる方向で連携が深まり、そこから同マッチング事業が生まれた。同社常務取締役・タウンマネージャーの廣瀬健さんは「任意団体時代から続くイベント運営や広報活動を通じて培った信頼関係とネットワークが、現在の事業を支える大きな力となっている」と話す。

「商業施設出店者マッチング事業」に参画する5つの商業施設
●商業施設出店者マッチング事業の実績
2025(令和7)年1月の事業開始から2025年9月現在までに、37件の問い合わせを受け、事業者への取次件数は51件、そのうち8件がマッチング成立に至った。出店希望者には、けやき並木通りのマルシェに参加していた個人事業主や、市外から新たに府中での展開を希望する事業者など、食品販売・美容・学習支援・歯科・輸入雑貨など業種も多岐にわたる。出店期間は1日から1週間の短期催事が多く、長期契約に踏み切る前にテストマーケティングも兼ねて挑戦できる仕組みが出店者から評価されている。同社事業推進チームの山城多世さんは「商業施設側も地域ならではの独自性を持つ出店者とのつながりを求めており、本事業が地域の多様な事業者と接点を持つ貴重な機会となっている」と話す。
「ミッテン府中」に出店した「OKOME MORITAYA」。
住宅地内の米店がマルシェの出店実績を経て商業施設での催事出店に発展。
目指す未来
訪れたい・働きたい・住みたい・住み続けたいまちとして持続すること。
まちの商業が盛り上がり、にぎわいと楽しさを生み出して、心地よくて豊かな暮らしができるまちになること。
パートナー・関係先
◎府中市

