2025.07.01
青梅市

花粉の少ないスギ林へ
多摩地域の森林を循環

公益財団法人 東京都農林水産振興財団[2022年5月取材]

 東京都の約40%を占める森林の多くは多摩地域西部に集中し、多摩地域全体の約半分を森林区域が占めている。森林は木材資源の供給だけでなく、CO₂の吸収や酸素の生成、雨水の浄化、生物多様性の保全など、地球環境にとって欠かせない機能を持っている(図1参照)。

 これらの機能を保つには、「植える→育てる→伐採・利用→再び植える」という森林循環が不可欠であるが、森林の生長には50~60年もの年月がかかるうえに、下刈りや間伐などの手入れが必要である。人工林はこの森林循環が滞ると森林は荒廃し、土砂災害や洪水などの災害の要因ともなる。

 スギやヒノキを中心とした人工林の多くは、高度経済成長期に植えられた。50年が経過した今、人手不足やコスト高、輸入材の影響で伐採が進まず、森林の荒廃が懸念されている。1960(昭和35)年におよそ90%を占めていた日本の木材自給率は、2023(令和5)年には43.0%に低下している(※1)。

 循環型社会の基盤である森林を適切に機能させるには、国産材の利用促進と木材産業の再活性化が求められている。東京都の森林循環促進事業を行う青梅市にある東京都農林水産振興財団を取材した。

※1:林野庁「令和5年木材需給表」

※出典:林野庁「森林の有する多面的機能」など 

※出典:林野庁「森林資源の循環利用を担う木材産業」

◎公益財団法人 東京都農林水産振興財団

ポイント

課題の背景・活動のきっかけ

●林業の低迷と人工林の維持問題

木材価格の長期低迷や、人件費や伐採搬出の経費の高騰などから、東京では伐採更新や木材生産がほとんど行われない時期が続き、森林循環が危ぶまれた。そこで、東京都は2009(平成21)年に「森づくり推進プラン」(※2)を策定し、スギ花粉発生源対策や林道などの基盤整備など、様々な施策を展開してきた。人工林を、木材生産に適しており林業経営の対象とするべき「生産林」と、公益的機能の増進を優先するべき「保全林」とに区分し、包括的な森林整備を進めるとともに、林業コスト軽減の推進や多摩産材の利用拡大などに取り組んできた。

※2: https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/sangyo-rodo/36moriplan

●高度経済成長で拡大した人工林と花粉

一方で成長した人工林から発生するスギ花粉も深刻化している。日本では、戦後の森林復旧や高度経済成長期の木材需要増に対応するため、スギやヒノキの造林が推進されてきた。近年、大きく育ったスギから大量の花粉が発生するとともに、気象の温暖化の影響により飛散量が増加傾向にある。多摩地域でもスギやヒノキを中心とした人工林が6割を占め、花粉を多く発生する樹齢30年以上に生長している。東京都福祉保健局の調査(※3)によると、2016(平成28)年度の都内におけるスギ花粉症推定有病率は48.8%で、10年前(28.2%)に比べて大きく割合が増えている。

※3:花粉症患者実態調査報告書(平成29年12月発行)

 

●花粉の少ないスギへ植え替えながら森林循環

こうした背景から東京都では、関係16局により花粉対策本部を構成し、その対策の一つとして森林循環促進事業を行っている。この事業は、花粉の少ない森林を育てて林業の再生を目的とするもので、東京都農林水産振興財団は2006(平成18)年からスギ林の伐採と花粉の少ないスギへの植え替え・保育を実施し、伐採・搬出・木材販売までを行う「花粉の少ない森づくり」を進めている。

花粉の少ないスギを植栽する様子

活動の特徴

●低迷する民間林業に代わり森を保全

同財団では森林所有者にとって大きな負担となる伐採・植林・保育を請け負い、民間に委託するかたちで遂行し、20〜30年かけて維持管理したのちに生長した森林を所有者に受け渡す。現在、東京の原木市場に入荷する多摩産材の約80%が同事業による木材となっている。

青梅市にある「多摩産材情報センター」多摩産材の利用者と供給者のマッチングを行う窓口

●「とうきょうの木」の活用

森林循環促進事業により収穫された木は「東京の木多摩産材(愛称:とうきょうの木)」として認証され、市場に出荷されている。現在、とうきょうの木はJR青梅線奥多摩駅(奥多摩町)などの交通施設、GREEN SPRINGS(立川市)やnonowa武蔵小金井(小金井市)などの商業施設、また多摩信用金庫本店(立川市)の1階天井と2階地域貢献スペースなどの施設に使用されている。都では「とうきょうの木」の需要拡大に向けて、民間施設に対し補助金制度「にぎわい施設で目立つ多摩産材推進事業」のほか、一般住宅の新築・リフォーム向けに多摩産材及び国産木材の量に応じて贈呈品と交換できるポイントを交付する「木材利用ポイント事業」などの支援事業を行っている。

多摩産材をつかった多摩信用金庫本店の1階天井(上)と2階地域貢献スペース(下)

 

●「花粉の少ない森づくり運動」

健全な森林を次世代に継承するための取り組みとして、同団体では「花粉の少ない森づくり運動」を展開し、都民・企業・団体に協力を呼びかけている。「花粉の少ない森づくり募金」「企業の森」「森づくり支援倶楽部」と3つの軸で展開し、寄付を募るとともに植林や木工教室などのイベントに参加できる会員制度を設けるほか、SNSやYouTubeでの情報発信も行うなど、森林循環やとうきょうの木の認知向上に励む。

花粉の少ない森づくり運動

目指す未来

貴重な森林を守り循環させることで、森林の持つ多面的機能を未来につなぐこと。

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