2025.02.01
多摩市

カルチャーを日常に
出会いと新たな視点を生むまちづくり

一般社団法人ニューマチヅクリシャ[取材:2023年2月]

 日本にはその土地に根付いた伝統や文化財などがあり、古くから多様な文化芸術活動が育まれてきた。しかし人口減少社会となった今日では、地域コミュニティの衰退や担い手不足が各地で課題となっている。

 2018(平成30)年に策定された「文化芸術推進基本計画」(文化庁)では、文化芸術の価値として、人々の創造性を育み表現力を高める本質的価値と、多様性を受け入れ相互理解を促進し、質の高い経済活動を実現するなどの社会的・経済的価値を示している。さらに、文化芸術資源については、地域住民の理解を深め、保存・継承していくべきものと位置付けている。文化芸術の推進には「国、独立行政法人、地方公共団体、文化芸術団体、文化施設、企業等の民間事業者」などの連携と協働が重要とされ、「文化芸術の創造・発展・継承と教育」「創造的で活力ある社会」「心豊かで多様性のある社会」「地域の文化芸術を推進するプラットフォーム」という4つの目標(目指すべき姿)が掲げられている。

 このように、文化芸術活動は人も経済も元気で魅力ある地域社会の形成に寄与しており、社会全体での関わりが求められている。多摩地域でも、新しい文化の創出や、創造性を発揮できる地域づくりの取り組みが行われている。多摩市の落合団地商店街を起点に、デザインや食、アートなどの手段で新しいまちの未来を描き出す、一般社団法人ニューマチヅクリシャの横溝惇さんを取材した。

出典:「文化芸術推進基本計画」(文化庁)平成30年3月6日

◎一般社団法人ニューマチヅクリシャ

ポイント

課題の背景・活動のきっかけ

●多摩ニュータウンの団地商店街が拠点

多摩ニュータウンの落合団地商店街で建築事務所を営む横溝さんのほか、同事務所の建築家、地域に人脈や文脈を広げるベーカリーの店主、都市の課題解決を行うディレクター、様々なアートプロジェクトを企画するキュレーターなど、多分野のメンバーが集まり運営されている。これまでに永山団地名店街でのワークショップやアーティストと団地を巡るツアー、豊ヶ丘・貝取商店街エリアでのランタンフェスティバルやマルシェ形式の夜市プロジェクトなどを手掛けてきた。

 

●設立のきっかけ

横溝さんは、2019(令和1)年に東京都の商店街をリニューアルする支援事業の専門家として、多摩センターの商店街に派遣されたことから、多摩ニュータウンとの関わりが始まった。当時、共に活動したメンバーとグループ名を「ニューマチヅクリシャ」と命名した。その後、インディペンデント・キュレーターの青木彬さんもメンバーに加わり、5人で文化やカルチャーを通じたコミュニティ活動を行ってきた。

 

●コロナ禍の「レスキューリプロジェクト」

広く地域と関わるきっかけとなったのがコロナ禍の2020(令和2)年。市内にある恵泉女学園大学で対面授業ができず、余ってしまったキュウリの苗300株を近隣の方に向けてドライブスルー方式で販売した。緊急事態宣言下で交流が閉ざされるなか、大学の先生にオンラインで育て方を指導していただき、SNSで成長の過程や収穫を共有し合うことで、購入した住民たちとのコミュニケーションが生まれた。これをきっかけに、地域と連携しながら様々なプロジェクトを展開していった。

活動拠点である横溝さんの建築事務所「スタジオメガネ」

「ニューマチヅクリシャ」のメンバー ©コムラマイ

活動の特徴

●アートやカルチャーを通じたコミュニティづくり

豊ヶ丘にある「J Smile多摩八角堂」を中心として毎年10月に開かれるランタンフェスティバルには、主催者として2020(令和2)年から参画する。会場全体に色とりどりのランタンが灯されるほか、音楽パフォーマンスやアジアの夜市をイメージしたニューヨイチが開かれ、多摩ニュータウンにゆかりのあるクリエイターたちによる市やワークショップが開かれるなど、多くのアーティストも関わるようになる。準備期間から地域の人たちが参加できるような仕組みをつくり、住民が生活のなかでアートと触れるきっかけとなると共に、ニュータウンで暮らすアーティスト同士の出会いの場にもなっている。

 

●暮らしに密着したプロジェクトに

まちや生活がどうしたら面白くなるかを考え、一過性のイベントではなく、プロジェクトやプラクティスとして捉えて継続的な視点で活動する。コミュニティガーデンの取り組みでは、まちの一角にあるポケットパークに商店会、大学、住民が協力してハーブを植えたり、ベンチを作ったりするなど地域に根差したプロジェクトとなっている。イベントやプロジェクトでの出会いから、これまでベッドタウンとして暮らしていた地域が、活動の場に変わる様子が見られ、クリエイターたちが新しい形で関わり始めている。商店街のなかに立ち寄れる拠点があることも、関係性の継続に寄与している。

 

●多様な視点が生まれるきっかけに

ランタンフェスティバルでは、地域の人々が準備から参加し、アーティストやクリエイターがまちの中で活動する姿を見ることができる機会を創出し、地域の人たちとの出会いや交流を生み出した。「日常的にまちの中でいろいろな生業や活動に触れられる状況をつくり出すことを大事にしている」と横溝さん。「まちには、出会いや人同士がつながるきっかけがたくさんある。ちょっと変わったものやアート作品が日常にあることで、それを見ながら対話が生まれたり、視点が変わったりするきっかけになる」と話す。

スタジオメガネには多摩ニュータウンにゆかりのあるアーティストの作品が並ぶ

レスキューリプロジェクト

ポケットパークにコミュニティガーデンを作る取り組み

目指す未来

都市に暮らす人々がより多様な未来を想像できるまちをつくること。

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