2024.11.01
多摩市

地域資源を掘り起こすマイクロツーリズム
産官学連携で進める「観光まちづくり」

多摩市・稲城市・八王子市・日野市・町田市
タマリズムプロジェクト[2023年6月取材]

 2020(令和2)年からの新型コロナウイルス感染拡大の影響により、大きく変化した観光関連産業。行動制限や外出自粛をきっかけに、自宅から1~2時間程度の地元や近隣地域を観光する「マイクロツーリズム」の考え方が全国的に広まった。当初は、観光業界のダメージを軽減するための一時的な措置として提唱されていたが、アフターコロナの時代にも旅行の一つの形態として認知され、地域の魅力を掘り起こすことで再発見し、経済を活性化させる手段として、多くの自治体や企業がマイクロツーリズム推進の取り組みを実施してきた。地域振興と併せて、移動距離が少ないことから環境負荷が抑えられるなど、持続可能な観光の観点からも注目されている。

 多摩地域にある複数の自治体と大学、企業の連携により、地域経済の振興と継続性のある地域活性化を目指す「タマリズムプロジェクト」が進んでいる。産官学の連携で推進するプロジェクトの仕組みづくりと地域への影響について、事務局を務める多摩大学総合研究所と京王観光株式会社を取材した。

◎タマリズムプロジェクト

 

ポイント

課題の背景・活動のきっかけ

● 新型コロナによる影響

2020年初頭、新型コロナウイルスの影響で国境が閉鎖され、多くの国で入国制限が施行された。この結果、2019(令和元)年に約2,008万人に達していた日本人の海外旅行者数は、2021(令和3)年には緊急事態宣言の影響で約51万人にまで落ち込み(※1)、海外・国内観光産業に大きな影を落とした。多摩地域の京王線沿線で観光業を担う京王観光株式会社は、コロナ禍と今後を見据え、多摩大学総合研究所と協働で、地元の魅力を再発見することで持続可能な地域活性化を目指す「観光まちづくり」のプロジェクトを立ち上げた。
※1:「訪日外国人旅行者数・出国日本人数の推移」観光庁

 

● 都内初の産官学連携プロジェクトに発展
多摩大学経営情報学部ながしまゼミの学生たちが、プロジェクトの企画運営を担当。多摩地域の課題に対し実践型の学びを続けてきた学生たちが同社とともに、初年度は多摩市・稲城市と連携しプロジェクトの仕組みをつくり、2023(令和3)年度は八王子市・日野市・町田市が加わり5市の自治体が参画、他大学(同年度は11大学・専門学校から29チームが参加)とも連携した産官学連携の大きなプロジェクトに進化している。

 

活動の特徴

●広く学生向けに公募し、自治体・地元企業と事業化

主に近隣エリアの大学生や専門学校生などで構成されるチームを対象に、地域課題の解決や地域ならではの魅力に焦点を当てたマイクロツーリズムの企画を公募。連携機関とのマッチング会や1次審査会、フィールドワーク(実証実験期間)を経て企画をブラッシュアップし、毎年12月に実施される最終審査会に臨む。最終審査会は「ドラフト会議」とも呼ばれ、自治体や企業などが可能性を見出した企画に投票し、コンテスト形式で表彰チームを選定。その後、事業化に向けて検討していく。

最終審査会の様子

 

●地域特性を活かしたマイクロツーリズムを企画

最終審査会で評価が高かった企画については、学生と自治体や観光協会、地元企業などがともに企画の事業化を目指していく。これまでに多摩市内の公園や散策路のスポットを制限時間内に回る「たま公園ロゲイニング(※2)」や、都立小山内裏公園でのバリアフリーサンクチュアリの実現など、学生のアイデアを基に多くの企画の実施や準備が進行している。

※2:地図をもとに制限時間内にチェックポイントを回り、得点を集めるスポーツ

 

●大学や自治体・企業の枠組みを超えて

多摩地域を中心とした大学や専門学校の学生に加え、多摩市若者会議に所属する学生チームも参加し、参画する地域企業も増加している。東京都立大学の学生チームのバリアフリーサンクチュアリの企画が、東京都公園協会とのタッグで実現化。さらに、多摩市若者会議に所属する学生メンバーのチームによる企画「たまころりんプロジェクト」も組み合わせ、飲食店のクーポンなどが当たるカプセル販売機を駅前の商業施設に設置。これによりバリアフリーサンクチュアリや公園の散策と周辺地域の周遊観光を促す企画となり、学生のアイデアをさらにブラッシュアップして事業化した。

東京都立大学の学生チームによる企画「バリアフリーサンクチュアリ」

ハンディキャップを持つ来園者が、園内のサンクチュアリ(動植物保護のために通常非公開で舗装されていない区域)の散策が難しいという課題に対し、舗装路脇にミニチュア版「サテライトサンクチュアリ」を設置した。

飲食店のクーポンなどが当たるカプセル販売機で回遊を促す「たまころりんプロジェクト」

 

フィールドワーク(実証実験)で企画をブラッシュアップ

目指す未来

大学がその専門性を活かして地域課題を解決する第一歩として、また、自治体や企業の社員が地域について自分ごととして捉え、共創していくきっかけになるプラットフォームとして機能していくこと。

パートナー・関係先

<主催・実行委員会>

◎多摩市

◎稲城市

◎八王子市

◎日野市

◎町田市

◎多摩大学総合研究所

◎京王観光株式会社

 

<企画>

◎多摩大学ながしまゼミ

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