2024.10.01
立川市

医療業界が直面する「2025年問題」
DX化を進めるクリニック

医療法人社団WHM [2024年8月取材]

 日本の少子高齢化は­­現在進行形で深刻化している。厚生労働省の「令和5年版厚生労働白書」によれば、今後も15~64歳の現役世代がさらに減少する一方、高齢化率は大きく上昇する見込みだ。特に団塊の世代が全て75歳となる2025(令和7)年には、65歳以上が全人口の29%となる予想が出ている(下図参照)。これにより引き起こされる諸問題は「2025年問題」と呼ばれ、なかでも医療・介護業界への影響は大きいと懸念されている。

 増加する高齢者の医療・介護ニーズに対して、それを支える現役世代の人口減少、加えて2024(令和6)年4月より医師の時間外労働の上限が規制され、医師の働き方改革も進み始めている。これらのことから、今後医療・介護の現場では人材確保や体制維持がますます困難となり、これまで通りの医療・介護サービスを受けることがさらに厳しくなる見込みである。

 現在この問題を解決するため、「医療DX(※1)」を進める機関が増えている。医療DXとは、病院・薬局・訪問看護ステーションなどにおいて、デジタル技術を活用して医療の効率や質を向上させること。カルテや問診票、処方箋のペーパーレス化、オンラインによる予約や診療、キャッシュレス決済などにより、医師をはじめとする医療機関側は業務効率化や生産性向上につながり、患者にとっても受診しやすいことや待ち時間が減るなどのメリットがある。このような「医療DX」を積極的に進める医療機関の一つ、医療法人社団WHMが運営するクリニックプラス立川を取材した。

※1:DXはデジタル技術を活用してビジネスモデルや業務プロセス、組織文化などを根本的に変革し、価値を創出すること。「デジタルトランスフォーメーション」ともいう。

◎医療法人社団WHM クリニックプラス

ポイント

課題の背景・活動のきっかけ

●医療・介護業界のDX化が遅れている主な理由

・扱うデータの機密性が高くプライバシー保護やセキュリティの規制が厳しい

・医師、患者、保険会社、政府機関など関係先が多く新しい技術に全員が対応することが難しい

・現行のシステムやプロセスからの移行に時間とコストがかかる

 

●医療DXの具体例とその効果(一般的な例)

・電子カルテ:診察時間の短縮や診療プロセスの効率化

・遠隔診療:過疎地や過密地での医療アクセス向上

・データ共有:電子カルテで診療情報や薬歴を一元管理することで医療機関同士の連携が容易になり、
 どの医療機関でも一貫した治療が受けられる

・業務プロセス自動化:医療スタッフの事務的負担軽減とコスト削減

・個別化医療:一人ひとりの特性に基づいた最適な治療を行うことで効果や患者満足度が向上する

・オンライン予約・相談:診療や相談がより便利になる

・AI活用による診断支援:診断精度の向上・誤診リスクの減少

活動の特徴

●クリニックと病院の違い

「19床以下、または病床を持たない医療機関」がクリニックまたは診療所、「20床以上の病床を有する医療機関」が病院とされる(医療法の定義による)。

クリニックは一般的に、病院よりも規模が小さく外来診療が中心。通常入院施設はなく、簡単な手術や処置が行われる。診療時間や曜日が決まっていて、特定の診療科目に特化していることが多い。提供する医療は初期診断や日常的な健康管理、軽症の病気の対応。

病院は規模が大きく入院施設が整っており、手術室や集中治療室(ICU)など、より高度な医療設備を備える。救急対応可能な病院は24時間体制。多くの診療科があり専門医が複数在籍。提供する医療は重篤な病気や手術、入院による治療。

 

●東京・千葉に8つのクリニックを展開する医療法人社団WHM

「患者さまにプラスの価値を提供する」を理念の一つとし、朝早くから夜遅くまでの診療時間、全クリニックが駅徒歩3分以内などの工夫により、患者一人ひとりのライフワークバランスに組み込みやすいクリニックを目指す。2021(令和3)年に1院目となるクリニックプラス下北沢を開院。現在は立川、高円寺、吉祥寺など東京都と千葉県に合計8院を展開(立川は4院目)。クリニックプラス立川(福井崇大院長)は2024(令和6)年1月開院、専門は内科・呼吸器内科・アレルギー科。

JR立川駅北口から徒歩2分のクリニックプラス立川

 

●受診しやすさを重視したDX化の取り組み

すべてのクリニックでLINE予約や問診、自動決済を導入。これにより患者が待たずにスムーズに診療を受けられ、受診後は会計なしで退室可能(自動決済の場合 ※2)。LINEで回答した問診の内容は電子カルテに即時反映され、明細や検査結果もLINEで見られる。処方箋はクリニックから希望の薬局に直接送ることができ、自宅で薬を受け取ることも可能。再診以降はオンライン診療にも対応。これらによって、「患者を長時間待たせない」「忙しい人の隙間時間を活用する」医療を提供する。

※2:クレジットカードの事前登録が必要

 

●幅広い世代に好評なスムーズな診療

クリニックプラス立川では、タイムパフォーマンスを重視する現役世代だけでなく、アクセスの良さから70代・80代の患者も徐々に増えている。スマホの操作に不安や抵抗がある人向けには、電話での予約受付や操作方法のサポートもする。

 

平日は朝9時から夜20時まで。土日祝日も診察

 

●医師・医療スタッフの負担を軽減

医師の働き方改革という視点でも、DX化が助けとなっている。2024(令和6)年4月よりスタートした「医師の働き方改革」制度では、医療現場における医師以外の専門職種の業務範囲拡大によるタスクシフトなどにより、医師の業務負担を軽減し、良質で効率的な医療を提供する方向性を示している。クリニックプラスでは業務プロセスでも、オンライン院長会議、アプリによるシフト作成・管理、LINEによる自動予約受付、会計自動化や診療報酬算定作業のセントラル化(本部での一括作業)などによるDX化を進め、医師と医療スタッフの負担を軽減する手段を積極的に講じている。「これまでの属人的な働き方から、“仕事を助け合い、分け合い、引き継ぎながら“がスタンダードになることで、医師のライフワークバランスも整いやすくなったと実感している」と福井院長。

会計は自動決済、または自動精算機での支払いも可能

 

目指す未来

身近な医療機関であるクリニックから良質な医療を提供していくことで、患者と医療スタッフの双方が共に健やかに暮らし、また働き続けられること。

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