2024.09.01
府中市

災害大国・日本から世界に誇る
「地震を測る」技術

白山工業株式会社 [2024年7月取材]

 「世界で最も地震が多い地域の⼀つ」である⽇本。特に「南海トラフ地震」「首都直下型地震」は、いつ起こってもおかしくないと言われている。2024(令和6)年8月8日には宮崎県で震度6弱を観測し、気象庁は南海トラフ地震の想定震源域で大規模地震が発生する可能性が普段と比べて高まっているとして、「南海トラフ地震臨時情報」を発表した。

 日本で地震が多い理由が、地理的特性とプレートテクトニクス(※1)の活動にある。日本列島は4つのプレートが交差する地域に位置しているが、特にフィリピン海プレートがユーラシアプレートの下に沈み込む「沈み込み帯(沈み込み型境界)」の南海トラフや、太平洋プレートが北米プレートとフィリピン海プレートの下に沈み込む「伸張帯(引っ張り型境界)」の伊豆・小笠原海溝などでは地震が発生しやすい(図参照)。南海トラフ地震では津波も予想されている。

 また、日本列島には多くの火山が存在するが、火山活動も地震要因の一つである。日本のシンボル・富士山も活火山で、直近の噴火は1707(宝永4)年。その後300年以上噴火がなく、歴史上これほど沈黙期が続いた記録はないという。

 このように地震や火山の多い日本では地震観測網が充実し、各地でデータが収集され、日本の地震観測網は世界一と言われている。

 府中市に本社を置く白山工業は、地震観測装置の製造メーカーである。ICTと高精度計測技術を用いた地震や火山の観測、解析機器を中心とした同社の製品は日本全国で利用されている。防災の重要性を深く理解し、その技術と製品を通じて世界の地震防災に積極的に貢献する企業として、今、必要な備えとは。府中市宮町の本社を取材した。

※1:地球の表面を覆うプレートが相互作用し地球の地殻が動く現象。地球の表面は複数のプレートに分かれ、内部のマントルの対流によって動いている。プレート同士が衝突、引っ張られることで地震や火山活動が発生する。

 

白山工業株式会社 ●https://www.hakusan.co.jp

ポイント

課題の背景・活動のきっかけ

●今後30年間で大きな揺れが高い確率で来るとされる日本

国の地震調査研究推進本部が将来日本で発生する恐れのある地震による強い揺れを予測し、予測結果を地図として表した「全国地震動予測地図」によると、震度6弱以上では日本列島の太平洋側地域の確率が26〜100%と高く、震度5弱以上では日本列島のほぼ全体が同じく高い傾向にある。

左が震度6弱以上、右が震度5弱以上

 

●阪神・淡路大震災をきっかけに地震観測の事業を開始

元々、スリッターと呼ばれる産業機器を先代の頃から製造していた白山工業。1995(平成7)年の阪神・淡路大震災の際、地上の通信網が壊れ大きな混乱が起きたことから、東京大学地震研究所が衛星通信で地震の情報をリアルタイムに集約・配信する観測システムを構築することになり、同社が受注。このことが地震観測事業を始めるきっかけとなった。

 

●防災ソリューションやロボット開発、光センシング技術へ

2017(平成29)年に東京パワーテクノロジー株式会社と、2018(平成30)年には大手ソフトウェア企業SAPジャパン株式会社と資本提携したことにより、それまでの地震防災事業に加え、極限環境で活躍するロボットの開発や、光センシング技術(※2)などへも事業を拡大。

※2:光ファイバに光パルスを送出し、戻って来る干渉光と散乱光を測定することによって長距離(数10km)に渡る振動特性を計測する技術。電子部品を使わないため極限環境での計測が可能となる。

活動の特徴

●地震の被害を見える化する防災ソリューション事業

計測地震防災システム「VissQ(ビスキュー)」は、地震計測技術を用いて建物の安全性の確認をサポートするシステム。建物に緊急地震速報の受信機を設置することにより、大きな地震が来る前に予測震度や到達時刻を知らせたり、建物内の各所に設置した地震計が建物全体の揺れをリアルタイムに把握し、遠隔地にいる施設管理者や利用者に的確な情報を届けることができる。全国400以上の施設に導入されている。

●日本全域で発生した地震の震源分布を3次元表示

地震を分かりやすく理解する例として、2002(平成14)年〜2024(令和6)年6 ⽉までに⽇本全域で発⽣した地震約300万個の震源分布を、Web ブラウザ上で公開している(下記URL参照)。日本各地で起きた地震を立体的に見られるため、地下のプレート境界面の3次元構造を確認したり、特定の場所と期間におきた個々の地震の震源群の構造を立体的に表示したりすることが可能。例えば2011(平成23)年1 ⽉から2024(令和6)年5月までに起きた約200万個の地震震源を3次元で表示すると、地震を起こすプレートの境界面が映し出されて日本列島の地下には太平洋プレートが沈み込んでいることがわかる(下画像の2、3点目)。

https://www.hakusan.co.jp/research_and_development/hypoWeb/

地震の大きさが丸の大きさで表示される

(左)日本周辺で発生した地震の震源分布(2011年~2024年) (右)地下から見た太平洋プレートの境界で起きる地震の震源分布

 

●極限環境ロボット研究所を設立

極限環境ロボット研究所[HERO Lab.]は、福島第一原発のように人が立ち入れない環境で活躍できる廃炉用ロボットなどの研究開発を目的とした組織。広瀬茂男東京工業大学名誉教授を所長に迎え、2020(令和2)年に創設。高温・高圧・海底・高線量・強電界・強磁場など、人の立ち入りが困難で電子機器が動作できない環境を「極限環境」と定義し、そのような環境下で利用可能なロボット技術、センシング技術を開発。世界中でまだ誰も解法を知らない、著しく困難で多様な問題を創造的ロボット開発によって解決することを目指す。

HERO Lab.のメンバー(右が東京工業大学名誉教授・広瀬茂男氏)

 

●地震計測技術を国際的なプロジェクトに応用

近年、カーボンニュートラルに向けたCCS(※3)の技術課題として、地下に貯留されたCO2の安全性を長期間に渡り常時監視する仕組みが求められている。多くのCO2貯留サイトは海底下にあり電源供給が難しく、かつ電子部品の長期安定性に課題があった。白山工業ではこれらの課題を解決するため、電子部品を用いず光技術を用いて微小振動を長期間連続的に捉える4D観測システムを開発している。この技術は公益財団法⼈⽇本財団と国際コンソーシアムDeepStar とで進めている海洋⽯油・天然ガス分野の新規技術開発を発掘・促進するプログラムに採択されている。

※3:「Carbon dioxide Capture and Storage」の略(日本語では「二酸化炭素回収・貯留」技術)。発電所や化学工場などから排出されたCO2をほかの気体から分離して集め、地中深くに貯留・圧入する技術

光技術を⽤いた海底震源の4D観測システム

 

●可搬型地震動シミュレーター「地震ザブトン」は全国の防災イベントで活躍

東京工業大学との共同研究により、2009(平成21)年に開発された「地震ザブトン」は、複雑な地震の揺れを再現するコンパクトな自走式の可搬型地震動シミュレーター。激震動だけでなく「数メートルの振幅を持つ長周期地震動」も屋内で手軽に体験できる。また、合わせて揺れる室内の映像を投影することで、よりリアルな地震動体験となる。体験できる地震のメニューは2016(平成28)年熊本地震、阪神・淡路大震災、新潟県中越地震、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)など。全国で開催されているJA共済の体験学習型イベントプログラム「ザブトン教授の防災教室」や、府中市内の複合施設ル・シーニュでの防災イベントでも活用されている。

地震ザブトン

イベントの様子

 

目指す未来

防災システム事業で先端技術と地震計測技術の融合により、世界の地震防災に貢献すること。日本のインフラと維持に貢献する会社であり続けること。

パートナー・関係先

◎東京パワーテクノロジー株式会社

◎SAPジャパン株式会社

 

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