「文化」とは、人間の衣食住や価値観など、暮らしに関わる全ての領域にわたり、自然や地域、他者との関わりの中で育まれていくものだ。文化庁は、人間の豊かな感性を育み、共生社会の基盤を形成する上でも、文化が重要な役割を持つと位置付けており、「社会全体で文化芸術の振興を図っていく必要がある」としている(※)。文化を大切にする社会を構築するためには、一人一人が文化を大切にする心を持つとともに、国や地方公共団体などの行政機関は文化を機軸にした施策の展開、そして企業には社会の一員として、文化の価値を追求した行動が求められている。
1991(平成3)年の設立より多摩地域全域の資料収集や展示、季刊郷土誌の発行など、多摩の美術や歴史の文化振興に取り組む「公益財団法人たましん地域文化財団」を取材した。
ポイント
課題の背景・活動のきっかけ
●地域の歴史・文化の普及発展のために
母体である多摩信用金庫(当時・多摩中央信用金庫)は、地域との共存共栄をめざすという信用金庫の基本理念に基づき、多摩地域の社会や文化の発展に努めてきた。その一環として、地域の歴史・文化の普及、発展に向けて、1974(昭和49)年には本店9階にギャラリーを開設、1975(昭和50)年には郷土誌『多摩のあゆみ』を創刊、1976(昭和51)年にそれらを運営する「多摩文化資料室」を開設した。同室を基盤に、1991(平成3)年4月に財団法人たましん地域文化財団を設立し、2012(平成24)年4月に公益財団法人に移行した。
●美術・歴史の文化振興に力を入れる
「美術・歴史の文化振興に努め、多摩地域の人々の新しい価値の創造とともに、豊かな生活と活力ある地域の文化形成に貢献すること」を使命に、地域の美術・歴史の文化振興に関わる各事業に取り組んでいる。
●茶の間の郷土誌『多摩のあゆみ』の誕生
1974(昭和49)年、多摩中央信用金庫創立40周年記念誌『多摩の歩みとともに』を刊行。同金庫の歴史とともに、多摩地域の発展の移り変わりを織り込んだ。編集を通じて、写真の提供など各自治体に協力を得ることで地域との縁がつながり、地域の歴史を刻む「茶の間の郷土誌」として、1975(昭和50)年に季刊郷土誌『多摩のあゆみ』が創刊された。以降、50年に渡り年4回発行されている。
歴史資料室
活動の特徴
●季刊郷土誌『多摩のあゆみ』
1975(昭和50)年に財団の母体である多摩信用金庫(当時・多摩中央信用金庫)により創刊されて以来、現在に至るまでおよそ50年にわたり多摩地域の郷土史について研究や取材を重ね、発行を続け、2024(令和6)年11月には196号を迎える。多摩地域の郷土資料館などの博物館や各自治体の図書館、研究者などとネットワークを構築し、地域の関係機関や研究者をつなぎ、郷土史研究を深める一翼を担う。表紙は、創刊号から多摩地域で活動する作家の作品で彩られ、毎号1万部が多摩地域全域に配布されている。
●多摩地域の歴史・文化の資料を5万冊所蔵「歴史資料室」
国立市にある歴史資料室では、創刊時から長年をかけて収集した、多摩地域30市町村のそれぞれの歴史や文化にまつわる資料およそ5万点が一般公開されている。その中には書店や図書館では出会うことのできない、地域の郷土史研究会が発行する会報誌などの貴重な資料もあり、それぞれの地域の持つ歴史や文化の奥深さに触れることができる。
●多摩のアーティストを支援「たましん美術館」「たましん歴史・美術館」「地域貢献スペース (ギャラリー)」
1991(平成3)年には、地域の住民が気軽に立ち寄れる美術館として国立市に「たましん歴史・美術館」を、2020(令和2)年には文化の拠点として立川市に「たましん美術館」を開館。多摩地域にゆかりのある作家などの作品展示や作品収集、また自治体や大学、他の美術館との連携で共催企画展の開催も行う。多摩信用金庫新本店にできた「地域貢献スペース」では、若手作家を中心に美大の学生など、これから世に出ていくアーティストたちの発表の場として、注目を集めている。
多摩のあゆみ
たましん美術館
たましん歴史・美術館
地域貢献スペース(ギャラリー)
目指す未来
郷土史のデジタルアーカイブを拡充し、地域の歴史に距離や場所に関係なくアクセスできるようにして、未来に残すこと。美術が地域に身近になると共に、多摩地域の美術やアーティストが世界へ羽ばたくこと。多摩地域の文化を振興し後世へつないでいくハブとなること。