2024.08.01
日野市

空き家を地域の資源に
利用者とのマッチングを行政が仲介

日野市 まちづくり部都市計画課[2023年12月取材]

 超高齢化社会の進展とともにあらゆる地域で大きな課題となっている「空き家」。東京都内には2018(平成30)年時点でおよそ81万戸の空き家があり(※)、今後、人口・世帯数減少が見込まれる中、ますます空き家が増加することが予測されている。

 なかでも特に問題になっているのが、様々な理由から適切に管理されず放置されている空き家。建物の劣化が進んだ空き家は、外壁や屋根、窓ガラスの破損の危険や、雨漏りによる内部の老朽化、動物や害虫の繁殖、庭木や雑草の繁茂など、景観や衛生面での悪化をもたらしている。こうした状況は近隣住民の生活環境や治安にも影響を及ぼしてしまうことから、多摩地域でも自治体が相談窓口の開設やセミナーを開催するなど、空き家対策に取り組んでいる。2016(平成28)年に「空き住宅等対策計画」を策定し、マッチング制度などに取り組む「日野市まちづくり部都市計画課」を取材した。

※空き家数データは総務省「平成30年住宅・土地統計調査」より
https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2018/pdf/g_gaiyou.pdf(概要)

日野市

ポイント

課題の背景・活動のきっかけ

● 全国的に増加する空き家と空き地

人口減少や少子高齢化、新築建設の過剰促進、相続問題などの様々な要因により、日本では空き家が増え続けている。日野市のような郊外住宅地は、高度経済成長期からその後の時代にかけて住宅が増加、それから40年以上が経過し、都市にもコミュニティにもゆっくりとした更新の波がきており、小さな穴が空くように空き家や空き地が増えてきている。核家族の世帯の分離や人口減少により、今後も緩やかに空き家の増加が見込まれる。

●「空家等対策の推進に関する特別措置法」の施行

全国で放置空き家が問題視される中、国会では「空家等対策の推進に関する特別措置法」(通称:空家等対策特別措置法)が2014(平成26)年11月に成立。同市でも兼ねてより住民から空き家の相談が寄せられており、市議会では超党派議員が「空き家対策議員連盟」を設立、市では対策窓口を一本化し、空き家対策推進が本格始動した。

● 空き家が放置される事情は様々

空き家の所有者は、「建物劣化のため市場に出せないがリフォームに出費もできない」「家に残された荷物が多すぎる」「活用してもらいたいがそのままにしておきたい部屋がある」など、様々な事情を抱えている。市では、管理が難しい状況にある所有者の意向に沿って、活用の提案や不動産の事業者の紹介など、適切な管理の促進を行っている。

地域の居場所「ツクルイエ たきあいあい」

活動の特徴

●「空き住宅等対策計画」の策定

同市では、2016(平成28)年に「空き住宅等対策計画」を策定し、空き家の所有者と活用希望者を仲介する「日野市空き家活用マッチング制度」や、空き家での地域貢献活用事業に対する補助金の創設などで、市内の空き家に対する取り組みを積極的に推進する。

● 空き家の活用法を考える「まちと空き家の学校」

2021(令和3)年から「まちと空き家の学校」を開催。地域での場づくりの拠点として空き家を活用する人材の育成を通し、空き家の活用促進とともに市民の空き家への関心を高めることを目指す。受講生は、空き家の状況や所有者の視点、自治体の取り組みや制度などを学び、地域の資源としていかに空き家を活用できるかを検討。さらに市内の事例を見学し、活用の課題を踏まえ、最終的には空き家を活用した場づくりにチームでチャレンジする。

●「空き家活用マッチング制度」で地域の課題解決へ

空き家の維持管理に困っている、活用に関心があるなどの所有者に対し、活用希望者を紹介し、空き家活用の実現に向けて仲介を進める制度。空き家の状況改善とともに地域の課題解決にもつながる取り組みとして、市が相談窓口を設け空き家活用をサポートする。所有者と相互理解を図りながら活用を進め、これまで20件以上のマッチングが成立した。

● 空き家が地域交流や防災活動の拠点に

マッチング制度を利用し、地区センターで活動していた高齢者の交流活動の拠点を空き家に移したり、空き家の庭部分を農園にし、障がい者の活動や地域との交流拠点にしたりするなど、様々な地域の拠点が誕生。丘陵地である程久保地区の「杉の子ひろば」は、地域住民が不安に感じていたアパートの空き家を、所有者と自治会、市の3者で話し合い、住民の広場として活用。老朽化した建物の解体後、地域住民が跡地を整え花壇や菜園をつくり、地域交流や防災活動の拠点となっている。

NPOの活動拠点「えんこらしょのお家」

多世代の交流の場「杉の子ひろば」。隣接する空き家の庭に菜園を設置

目指す未来

空き家が地域活性につながる事例が増えて、空き家の所有者や地域住民などに、「地域の資源」としての空き家の認知が広まること。地域の中から活用の可能性のある場所や活用の要望が上がるなど循環が生まれること。

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