2024.08.01
国分寺市

地域全体で子どもを育む
フォスタリング機関が担う里親支援

NPO法人キーアセット [2024年5月取材]

※フォスタリング機関とは:里親支援を行う機関のこと。「里親養育包括支援機関」ともいう。

 現在東京都には、親の虐待や病気などにより、親元で暮らせない0歳から18歳までの子どもが約4,000人いる(全国には約42,000人)。こうした子どもを、里親やファミリーホーム、児童養護施設、乳児院などにおいて公的責任で社会的に養育し、保護するとともに養育に困難を抱える家庭への支援を行うことを「社会的養護」といい、都道府県などの事業として「子どもの最善の利益のために社会全体で子どもを育む」を理念に、全国で行われている。また、厚生労働省ではこのような社会的養護を必要とする子どもについて、家庭と同様の環境で育つことが自然で有意義だとし、「里親制度」を原則として検討すべきとしている(※1)。

 東京都でも、里親(養育家庭)で暮らす子どもを2029(令和11)年度までに37.4%とする計画(※2)だが、現在その多くは乳児院や児童養護施設で暮らしており、里親家庭で暮らす子どもは約17%。これは欧米の主要国と比べても特に低く(※3)、今後、里親制度のニーズは日本でますます高まる見込みである。

 里親制度では、「フォスタリング機関」が地域の児童相談所と協働し、里親家庭やそこで暮らす子どもに包括的な支援を行う。乳児院や児童養護施設を運営する社会福祉法人、または民間の団体がこの包括的な支援を担っている。

 この分野で12年以上の実績を持つパイオニアであり、現在も全国複数の自治体で里親養育支援を行っているフォスタリング機関「NPO法人キーアセット」の東京オフィスを取材した。

※1:厚生労働省「里親委託ガイドライン」

※2:「東京都社会的養育推進計画」2020(令和2)年

※3:こども家庭庁支援局家庭福祉課「社会的養育の推進に向けて」2023(令和5)年

◎NPO法人キーアセット(小平児童相談所フォスタリング機関)

ポイント

課題の背景・活動のきっかけ

●日本で里親家庭よりも施設で暮らす子どもが多い理由  

日本における社会的養護は戦争孤児の救済から始まり、現在もなお乳児院(0歳から2歳)や児童養護施設(3歳から18歳)などの「施設養護」が多くを占める。一方、里親制度が広く普及しない要因としては、認知度の低さ、「里親(養育家庭)=実親との親子関係がなくなる特別養子縁組」という誤解があること、里親家庭が地域で孤立しやすいこと、里親委託(※4)は親権者の承諾がないと原則できないことなどが考えられる。

※4:都道府県(指定都市及び児童相談所設置市を含む。以下同じ)が、要保護児童を里親に委託する措置をするもの

 

●子どもの数は減っているが相談件数は増えている現状

少子化により子どもの数は減少しているが、児童相談所への相談件数は年々増加傾向にある。また、相談内容は虐待以外に養育に関する相談も多い。

 

●2020(令和2)年10月から東京都でフォスタリング機関事業が開始

2016(平成28)年の児童福祉法改正で、都道府県が行うべき包括的な里親支援業務(フォスタリング業務)が明記されたことを受け、2020(令和2)年度よりフォスタリング機関の設置が全国で拡大。東京都では多摩児童相談所をはじめ、東京都が管轄する児童相談所11か所のうち9か所でフォスタリング機関を開設(2024(令和6)年度時点)。

 

●小平児童相談所の里親養育包括支援事業を受託(2023(令和5)年4月から)

キーアセットでは現在、大阪府、東京都(小平児童相談所)、神奈川県川崎市、福岡県と福岡市、千葉県千葉市で里親養育包括支援事業等を受託(2024(令和6)年5月時点)。具体的な事業内容は、里親のリクルート(募集)、里親になるための研修、子どもと里親家庭のマッチング、委託中の子どもの支援、委託解除後の支援など。また、里親制度の認知度向上のため、里親リクルーター(広報担当)による普及啓発にも力を入れる。

クリアファイルなどの販促物も制作し配布している

活動の特徴

●小平児童相談所エリアの特色と地域差

小平児童相談所は東京都多摩地区の9市(西東京市・東久留米市・小平市・東村山市・清瀬市・東大和市・武蔵村山市・小金井市・国分寺市)を管轄。エリア内人口は約115万人・子どもは約17万2千人(2022(令和4)年1月時点)。東京都の区部に比べて範囲が広く、児童養護施設・乳児院も多い地域(8施設)。

 

●里親委託率(※5)は自治体によって大きな地域差がある

全国の自治体によって大きな地域差がある里親委託率。東京都は16.8%、最も高い福岡市は59.3%、最も低い金沢市は8.6%。また、東京都の中でも都心部では特別養子縁組が多く、多摩地域では養育里親が多い傾向にある。

※5:社会的養護の子どものうち、家庭と同様の養育環境(里親やファミリーホーム)で生活する子どもの割合

 

●里親になるために必要な要件とは

里親家庭に特別な資格は必要ないが、子どもの養育に必要な一定の要件が定められている。

・都内在住の夫婦で、健康であること(配偶者がいない場合は子どもを適切に養育できると認められ、養育支援者として関わることのできる20歳以上の親族などが同居していること。なお、養子縁組里親の場合は婚姻していること)

・経済的に困窮していないこと(養育家庭(親族)・親族里親を除く)

・住居が家族構成に応じた適切な環境であること、刑罰や児童虐待などへの関与がないこと

・本制度が子どもの最善の福祉を目的とする制度であることを理解していること

 

●里親の申請から登録までの流れ(東京都の場合)

居住する地域管轄の児童相談所に問い合わせ。要件の確認と面談数回を経て、法定研修(講義2日・実習2日)受講の後、申請書類を提出して家庭調査を受ける。動機や養育感、生い立ちや家族、生活状況や健康状態、趣味嗜好などを回答し、この回答や研修結果を元に東京都の里親認定部会の審議を経て東京都知事が里親として認定し登録される。

 

●里親が孤立しないよう里親家庭と子どもをチームで支援

東京都では、東京都・育成支援課や児童相談所、区市町村の子ども家庭支援センター、地域の学校や医療機関、児童養護施設・乳児院、フォスタリング機関と里親が連携し「チーム養育体制」で子どもを支援する。キーアセットはフォスタリング機関として、里親の困りごとや不安を聞き取りしたり、定期的な家庭訪問で様子を確認したり、また里親同士の交流や研修の機会を作ったり、気になる子どもの様子、将来のことなどを児童相談所や関係機関と話し合うこともある。

 

●認知度向上のための広報活動

大きな課題は「里親制度の認知度の低さ」。そのためにキーアセットでは毎月、里親制度説明会を開催。また、こども家庭庁が毎年10月に実施する「里親月間」に合わせ、里親の子育て体験などを聞くことができる「養育体験発表会」などを主催。ほかに各地域の祭りやイベントで、同制度を身近に感じられるような普及啓発活動を積極的に進める。

 

●フォスタリング機関として欠かせない地域との連携

キーアセットでは「里親制度を広げるためには福祉の枠をはみ出る取り組みが必要」と考え、地域の企業や団体に普及啓発への協力を依頼している。協力先にはスタッフが出向き、職員への制度説明会を実施するなど、地域一帯で子どもを育てることへの理解と連携を広く呼びかける。

掲示協力をお願いしているポスターなど

目指す未来

地域で育つ子どもたちの健やかな育ちを支えること。そのためのより良い環境づくり、まちづくりを続けること。里親制度の普及をさらに進めること。

パートナー・関係先

小平児童相談所

NPO法人キーアセット(本部)

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