2024.07.01
西東京市

「豊かさとは何か」を問うイベントで
地域に根差す文化を創る

茅スタジオ [2024年5月取材]

 国民生活に関する世論調査(令和5年11月調査)によると、「今後の生活において、これからは心の豊かさか、まだ物の豊かさか」という問いに対して、「物質的にある程度豊かになったので、これからは心の豊かさやゆとりのある生活をすることに重きをおきたい」(以下、「これからは心の豊かさ」)と答えた人の割合が48.8%、一方「まだまだ物質的な面で生活を豊かにすることに重きをおきたい」(以下、「まだ物の豊かさ」)と答えた人の割合が50.0%だった。この結果を年齢別に見ると、「これからは心の豊かさ」と答えた人は60歳代、70歳以上のシニア世代で多く、「まだ物の豊かさ」と答えた人は18~29歳から40歳代までの若い世代で多くなっており、「豊かさをどう捉え、何に重きを置くか」は人生のステージによっても変わってくることがわかる。

 そもそも「自分にとっての豊かさ」について、じっくり思いを巡らせる機会はあまりない。

 イベントや展示を通し、この「豊かさとは何か?」という問いを幅広い世代に投げかけ、共に考えることで地域に文化を作る活動をしている場所がある。西東京市にある「茅(ぼう)スタジオ」を取材した。

茅スタジオ

ポイント

課題の背景・活動のきっかけ

●まちに自分たちの文化を作りたい
自宅建設を機に、西東京市に転入してきた代表の茶畑さん。他の地域同様、西東京市にも「昔から続く文化」はあるが、自分のような「移住者のための文化」は少ないように感じていた。そのような折に写真家の中村紋子さんと、2020(令和2)年12月にシェアスタジオをオープン。自分たちで考え、自らの手でつくり、続けていくことで、自分たちなりの文化をこの場所から地域に創りたいという思いで活動をスタート。

●住宅地にあるマンションの一室を利用した茅スタジオ
スタジオは、マンションの一室をリノベーション。2021(令和3)年12月から、オリジナリティあふれるイベントや展示を毎月企画・開催。2024(令和6)年現在、ひと月に3〜7個のイベントを開催し続けている。

●エンターテイメントに終始せず 文化を創り出す仕組み
「哲学対話」「たきび会」「一日写真館」「スーパーリユース展」など、多様な企画があるが、共通で「豊かさとは何か?」というテーマを設定。どのようなイベントでも、根底にこの問いがあり「楽しく、みつめ、考える」企画にすることで、一過性のエンターテイメントに終わらない、自分たちの文化を創り出す仕組みを目指す。

活動の特徴

●落ち着いてものを考えられる 茶室のような空間
壁と天井に広がる真っ白な漆喰が印象的なスタジオ内。リノベーションの最中、漆喰を塗りながら茶畑さん自身が存分に自問自答でき、これまでと異なる価値観に気付けたことから、「考える」「つくる」「展示する(人の考えを見る)」の3つが同時にあり、自身の考えや思考を熟考できる静かな空間として制作。

©︎中村紋子

 

●企画立案は自身が気になる社会問題から
以前は繊維関係の商社で働いていた茶畑さん。近年のアパレル業界の問題として、海外産の安価な服をワンシーズンで捨てる人も多い状況のなか、国内の繊維産地が衰退していることも強く感じる。そのような思いから服や布にまつわる展示やイベントも多い。また、性教育など公教育で不足している部分を自分たちで学び合うイベントもある。

あたらしくない展 あたらしくない展

©︎中村紋子

ソーイング部

こどもとおとなの性教育

©︎中村紋子

 

●「哲学対話」は役に立たないことが良い
人気企画「哲学対話」は、大人向け、こども向けなど年齢層を分けて毎月開催。「おとな哲学」は金曜夜、参加者とファシリテーターで回ごとにテーマを決める。一方「こども哲学」は5歳程度から参加可能で、近隣のみならず都心部からも参加がある。子どもたちが自然と対話に入れるような遊びを取り入れながら徐々に対話につなげ、最後にはみんなで大きなコップのタワーをつくる。協力する、意見をし合うなど、哲学だけでなく多様な気づきを得られるよう、ファシリテーターが子どもたちを信頼し、任せながら進行する。「哲学対話」では、何かを解決したり答えを出すのではなく、モヤモヤしたまま考え続けられることが大事とされる。

●大事にしていることは「楽しい一度の体験」で終わらないこと
イベントでは、その時間が参加者にとって「楽しい一度の体験」の消費で終わることのないよう、各自がそこで体験したことをみつめ、考えられるように構成。対象を極力ニュートラルに撮ることを目指す「一日写真館」、火を介して人間の原初的な営みを体感する「たき火会」、古布回収業者からピックアップした古着をベースに染めと形をリメイクし販売したり交換したりする「あたらしくない展」、兵庫県赤穂でつくられている絨毯をアップサイクルする「あたらしくないものへのエセー展」などがある。

一日写真館

たき火会

©︎中村紋子

 

●西東京市ビジネスプランコンテストでたましん賞受賞
「西東京市ビジネスプランコンテスト2023」で、茅スタジオのイベント事業が多摩信用金庫賞を受賞。

西東京市ビジネスプランコンテスト

目指す未来

イベントを通じ、参加してくれた方々と共に「豊かさとは何か?」について考え続けること。一つひとつの企画を真剣につくり、イベントの精度を毎回高めていくことで、スタジオに関わり、発信していく人が徐々に増えていくこと。

パートナー・関係先

中村紋子

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