世界の年平均気温は1891(明治24)年の統計開始から上昇を続けており、およそ100年あたり0.74℃の割合で上昇している(国土交通省気象庁「世界の年平均気温」)。近年は世界各地で豪雨や猛暑をはじめとする様々な自然災害が発生しており、気候変動の原因である二酸化炭素などの温室効果ガスの削減が求められている。2015(平成27)年に採択されたパリ協定では、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という目標が設定され、現在日本を含む120以上の国と地域が、2050(令和32)年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「2050年カーボンニュートラル」を掲げて取り組んでいる。
エネルギー資源の乏しい日本では、かねてよりエネルギーの安定供給が課題になっており、さらにカーボンニュートラルの実現に向け、エネルギー消費の削減や再生可能エネルギーの主力電源化などが推進されている。太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスなどの再生可能エネルギーは、国内で生産でき永続的に利用ができるほか、温室効果ガスを発生しないエネルギー源として期待が高まっている。相模原市で農地を活用したソーラーシェアリングに取り組む「さがみこファーム」を取材した。
図1出典: 経済産業省資源エネルギー庁「令和3年度(2021年度)エネルギー需給実績(確報)」(2023年4月)
ポイント
課題の背景・活動のきっかけ
●温室効果ガス削減とエネルギー自給に向けて
温室効果ガス削減に向けたカーボンニュートラルの実現と、エネルギー自給の促進のため、日本では再生可能エネルギーの主力電源化などが推進されている。
●「ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)」の促進計画
再生可能エネルギーの国内供給は9年連続で増加しており、中でも太陽光発電は前年度に比べて8.9%増と伸びるなか、(経産省資源エネルギー庁「令和3年度(2021年度)エネルギー需給実績」)、農地の上部空間に設備を設置し、農業と太陽光発電で農地を共有する「ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)」の取組促進が、2020年の食料・農業・農村基本計画に位置づけられた。
●東日本大震災が転機に
代表取締役社長の山川勇一郎さんは、東日本大震災をきっかけに再生可能エネルギーに関心を持つようになり、地元・多摩市での太陽光発電事業を経て、相模原市の農地を活用し、農作物とエネルギーを同時生産する「営農型太陽光発電」を実現した。
活動の特徴
●ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)とは
農地の上部空間に設置したソーラーパネルにより地面への日射量を調整し、太陽光を農業生産と発電とで共有する取組み。農地法に基づく一時転用許可により、農地に支柱を立て設備を設置することができる。
●「地域共生型」ソーラーシェアリング
耕作放棄地となっていた7,000平米の農地に、ソーラーパネルを設置しブルーベリーを栽培。農地の地権者や地域の理解を得ながら準備を進め、耕作放棄地の農地利用、食とエネルギーの地域生産、地域での多様な雇用の創出、農業の6次産業化など様々な価値を生み出す「地域共生型」のソーラーシェアリングを実践している。
●会員制体験農園「さがみこベリーガーデン」
2023(令和5)年6月に会員制の体験農園「さがみこベリーガーデン」をグランドオープン。会員制農園では、36種類1,100本のブルーベリーの摘み取り・食べ放題が楽しめるほか、食育・自然体験・エネルギー体験を通じてSDGsを学ぶ機会も提供する。
●地域理解を得るために
太陽光発電のメリット、農作物の光合成に必要な太陽光を確保できるソーラーパネルの設置法や使われていない農地や地域へのメリットなどを、地権者や地域に丁寧に説明しながら関係性を築いてきた。
●地域貢献の取り組み
自治会と非常時の電源供給の協定を結んだり、地域の小中学校の環境学習や職場体験の場として子どもたちを受け入れたりするなどの地域貢献を行っている。
●多様な雇用を生み出す
ブルーベリーの栽培や収穫などでは、地域の高齢者や子育て中の女性たち、障がい者施設の利用者など、地域の人たちに多様な雇用を生み出している。
目指す未来
法人会員をはじめとする企業や地域の関係者と連携して、地域共生型ソーラーシェアリングを津久井全域に拡大し、こうした取り組みを通じて、食料とエネルギー自給率の向上を図るとともに、自然と調和した地域の未来づくりを目指す。