2024.05.01
日野市

ありのままの私でいられる
日野市のフリースクール

もうひとつの居場所 第2の学校 ももの木 [2024年3月取材]


 日本の教育現場において、不登校(※1)は近年特に深刻な問題として取り上げられている。通常の学校教育を受けるべき年齢に達している子どもたちが、様々な理由から在籍する教育機関に定期的に足を運ぶことが難しくなり、結果として学習や社会経験の機会を失うこととなる「不登校」。文部科学省によると、小中学校における不登校児童生徒数は10年連続で増加し、2022(令和4)年度には過去最多の29万9048人となった(下図参照)。現在、この問題に対処するためそれぞれの教育機関や地域で様々な対策を講じているが、その一つとして注目されるのが「フリースクール」だ。フリースクールは従来の学校教育とは異なり、学習活動、教育相談、体験学習など多種多様な活動を行う民間施設を指す。

 2023(令和5)年10月に開所した日野市のフリースクール「第2の学校 ももの木」を取材した。

※1:不登校の基準は、病気・経済的理由・新型コロナウイルスの感染回避による欠席を除き、年間30日以上の欠席(文部科学省)

第2の学校「ももの木」 

ポイント

課題の背景・活動のきっかけ

●日野市の小中学校における不登校児童生徒数は、2022(令和4)年度453名。同市では、各自のクラスの教室に入りづらい児童や生徒のための校内別室指導(6校で実施)や、市運営の学外施設「わかば教室」も実施しているが、依然としてどこにも通えていない児童や生徒も多い。

●不登校の原因は様々であるが、主にいじめや適応困難、家庭内の問題、学習や人間関係の不安、無気力などが挙げられる。

●2020(令和2)年初めから続いたコロナ禍においては、学校生活においても様々な変化を余儀なくされ、児童や生徒はもちろん教員も余裕がなく、双方にとりストレスのかかる状況が続いた。コロナ禍前から学校生活が困難であった児童や生徒にはさらなるストレス(マスク着用の義務など)がかかることとなり、これをきっかけに不登校となり、現在まで続いているケースもある。

●「第2の学校 ももの木(以下、ももの木)」代表の寺前さんは、2023(令和5)年3月末まで小学校の教員。現場では教育水準を「中位」に合わせて授業を進めるため、ギフテッド(※2)や学習障害(※3)のある児童については個別の支援が難しい現実があった。現場で教育を変えることは困難と感じ、またアメリカ留学の経験もあったことから、多様性やそれぞれの意見を尊重するフリースクールとしてももの木を開所。

※2:高い知能や創造性を持ち、一般の同年齢の人々よりも学習の成果を示す人のこと
※3:全般的な知的発達に遅れはないが、特定の能力の使用と獲得に困難があること

活動の特徴

●日野市多摩平に2023(令和5)年10月開所
日野市多摩平の森産業連携センターPlanT(プラント)のチャレンジショップ(2年間)として開所。対象は小学生と中学生とし、2024年3月時点で小学1年生から6年生まで13人が通所、卒業した児童が3人。様々な事情で不登校となった児童や生徒の自己肯定感を育み、元の学校へ送り出すことを使命とする。

●1日の流れと学習内容
週に1日または2日、時間を10時〜14時とし、午前中は国語、算数、英語、理科、社会から選択した教科を静かに学ぶ時間と探究型学習。午後は近くの公園などへ全員で出かけ、四季折々の自然を感じながら1日に平均5000歩以上歩く「歩育(※4)」も大事にする。平日5日間のうち4日は学校へ行き週に1日ももの木へくる児童や、学校には行かずにももの木のみに通う児童もいる。各児童の学校長とは連携し、ももの木に来た日は出席扱いになる(文部科学省の要件を満たす必要あり)。また、多くの公立学校には各学年ごとの学習指導要領や成績表などの評価があるが、ももの木では学年と異なる学習を学ぶことも可能、評価もない。

※4:歩いて自然や社会に触れ、五感を開き体で学ぶ直接体験を通じて、子どもたちの豊かな心、生きる力を育むこと


1日の流れ

フリータイムには本を読んだり絵を描いたりアナログゲームをしたりして過ごす。
ももの木ではデジタル機器は使わないルール。

●ももの木の特色
家のように靴を脱いでくつろげる室内で、上履きや靴下を履くことに抵抗を感じる児童にも配慮。部屋の一角には、跳躍を通して記憶力や集中力を高めるトランポリンや、足裏をチクチクと刺激することで普段使わない小さな筋肉まで動かせる人工芝エリアがある。また、ドイツやフランスなどのアナログゲームが多数並び、論理的思考力、判断力、相手の考えを推論する力など「遊びながら楽しく学ぶ」ことも大切にする。お昼には寺前さん手作りのオーガニックなご飯と味噌汁を提供する。

   
(左)日野市在住の線画家・もんでんゆうこ氏による手描きの絵がガラス窓を彩る。
(右)皆でコミュニケーションしながら遊べる海外のアナログゲームが数多く揃う。


●アウトプットを大切にする探究型学習
探究型学習ではそれぞれの興味に沿って課題を自ら設定し、解決に向けて情報を収集分析する。調べた内容は発表したり、周囲の児童と意見交換するなど、自分の意見を積極的に発言していく対話型教育を実践。

●大切にしたいのは個人の尊重
ももの木が目指す「自立」は、「オールマイティに一人で全てができるようになること」ではなく、「自分の“好き”や“できる”を伸ばすこと」。そして「助けてほしい時に助けてと言えること」。「日本では人になかなか頼ることができず、助けてほしい時に声を出せない人も多いと感じるが、ここで人とつながり、それぞれの得意なことを持ち寄り、力を合わせることを学んでほしい」と寺前さん。

●家族との共有
月に1回、保護者との時間を設定。親同士の情報交換や、ももの木の教育スタイルに理解を求める。児童の保護者からは「通う中で自分も元気になった」「ありのままでいいと思えた」「子どもが前向きになった」などの声が届く。

●ももの木が目指す今後
自身の経験から、常に忙しくアップデートがなかなかできない教員の状況もよく知る寺前さん。子どもと保護者だけでなく教員の力にもなりたいと考え、2024(令和6)年3月、教職課程を履修する大学生数名をインターンとして受け入れた。寺前さんの児童との関わり方や保護者との接し方を実地で見てもらい、教育現場に送り出すこと、そしてももの木の活動に賛同して共に働く仲間を増やしていくことが目標。

目指す未来

「多様な学びの場」がより多く提供されることにより不登校の児童や生徒が減り、子どもたちが成長してそれぞれの得意なことを持ち寄り、人とつながり、力を合わせて生きられる社会をつくること

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