少子高齢化という社会課題を抱える現在の日本。厚生労働省の人口動態統計によると、年間の出生数は2016(平成28)年以降は過去最少を更新し続けている。その背景には、働く女性が増えたことや核家族化などのライフスタイルの変化もあると考えられる。
また地域のつながりも希薄になり、子育ては子どもと1対1の時間を過ごすことの多い母親が孤独を抱えやすく、「産後うつ」や「ワンオペ育児」などのトピックが近年のニュースではたびたび取り上げられている。さらにコロナ禍によって、子育て中に必要な地域など身近な仲間との関係性構築が困難になっている。
コロナ禍の2020(令和2)年に子育て中・経験者1000人にPIAZZA株式会社が行った調査では、67%が孤立や孤独を経験したと回答(男女別では女性:74%、男性:33%)。最も多くの人が孤立や孤独を感じるのは「子どもと2人きりでいる」時、次いで「近所に悩みを共有できる友達がいない」時となり、日常で時間や悩みを共有できる相手の存在が、子育てを楽しむための大きなポイントであることがわかる。
そうした課題をテクノロジーの力で解決すべく誕生したのが、遠隔協同子育てロボット「ChiCaRo」。開発に携わった電気通信大学特任助教で博士(工学)である阿部香澄さんと、株式会社ChiCaRo COO 安崎優太さんにお話を伺った。
ChiCaRo(チカロ) ● https://www.chicaro.co.jp/
ポイント
課題の背景・活動のきっかけ
●開発者自身が、初めての出産後、家事や育児と仕事である研究を両立させる生活に困難を抱えていた。
●料理や洗濯をするほんの少しの間だけでも子どもを見守ってくれる人がいるだけで子育ての閉塞感が解消されるのでは、と感じていた。
●遠方に暮らす祖父母からは、離れているので子育てを手伝いたくても手伝えないという声も多く聞かれた。
●阿部さんは開発者の経験から課題を設定し研究を進め、2017年に電気通信大学発ベンチャーとして株式会社ChiCaRoの設立に貢献。現在は、株式会社ChiCaRoのCOO安崎さんと協力しながら、ChiCaRoを介した発達支援システムなどの研究開発や実証実験を精力的に進めている。
活動の特徴
●遠隔協同子育てロボット「ChiCaRo」は、離れて暮らす祖父母などが、画面の向こうからロボットを遠隔操作することで、子どもと話したりおいかけっこをしたりするなど、コミュニケーションを図りながら遊ぶことができることが特徴。
●いくつものプロトタイプを経て、現在は子どもが安全に遊べ、祖父母世代が無理なく遠隔操作できるシンプルな機能を搭載したChiCaRoの実証実験が、一般家庭や保育園などで進行中。
●おもちゃの安全基準や保育士などの意見を取り入れるほか、試験センターでの耐荷重試験なども実施して研究を進めた。
●一般家庭の導入と併せて、保育園など集団生活の場に適したモデル開発や、発達支援機能を搭載させた電気通信大学と大阪大学との協同プロジェクト「NEDOプロジェクト」も進行中。
目指す未来
ChiCaRoが子育て中の孤独を解消する一助になること。孤独な育児環境の解消により、児童虐待や子どもの発達、さらには少子化など、出産や育児にまつわるさまざまな課題解決へアプローチしていきたい。
パートナー・関係先
◎国立大学法人 電気通信大学 https://www.uec.ac.jp/